第69話 最大の危機 ★
少しエッチな描写が入ります。
苦手な方はお気を付けください。
◆◆◆
いつもの宿の個室に戻ると、俺はベッドに飛び込んだ。
その瞬間、どっと疲れがわいてくる。
実に心地よい疲労感だ。
「ふぅ……今日も大変だった」
この後はいつもどおり『
本来ならメルルの番だが、昨晩はウィスリーがおねむだったので交代だ。
といっても、メルルも指導のために同伴するので彼女とは今夜も顔を合わせるのだが。
「それにしても、ずいぶん暑い夜だな」
先ほどから汗が止まらない。
そう、まるで頭だけをお湯の中につけられているような……。
「いや、待て。ひょっとしてこれはスライムの感覚共有か? いったいどういう状況なんだ」
シエリがスライムを『フレモン』として報告するからと王宮に連れて行ってしまったので、向こうで何が起きているかはわからない。
「仕方ない。感覚共有レベルを最大にして確認してみるか」
目を
次の瞬間、湯気の向こう側に裸のシエリが見えた。
「ぬわああああっ!!」
ベッドの上でのたうち回る。
「な、なんなんだ? 今のは王宮の湯浴み場!? シエリめ、あんなところにスライムを連れ込んだのか!」
み、見てしまった……!
従来のスライムに視覚はないのだが、せっかくフレモンスライムのデザインに顔があるのだからと遊び心で魔法的な感覚器官を与えたのが仇となった!
俺が目を開いたのでスライムからの視覚情報はなくなったが、脳裏に焼き付いた映像が離れない。
不甲斐ないことに体も一部も反応してしまった。
「うう、すまないシエリ……俺は仲間に欲情する最低の男だ……!」
自己嫌悪に陥っていると、シエリの心配そうな声が聞こえてきた。
「あれ? この子、ダレダレになってる。熱さに弱かったのかしら? ごめんね、気付かなくって」
パシャっという音とともに、お湯と羞恥でホカホカになっていた頭が冷却される。
どうやらシエリがスライムに冷水をかけてくれたようだ。
かなり気持ちいい。
「ピュッピュ!」
「あ、元気になった! よかったー」
全然よくない。
「それにしても本当に『フレモン』を発見するなんて。さすがアーカンソーよねー」
「ピュイ」
いや、ピュイじゃないんだが!
「あ、そういえば名前決めてあげなくっちゃね! ピューちゃんじゃ安直すぎるかしら?」
「ピュ」
というか、どうして感覚共有レベルを下げられないんだ!?
本心では、このままシエリと湯浴みすることを望んでいるとでもいうのか?
部屋の扉がノックされたのは、まさにそんなときだった。
「ご主人さま、おまたせー!」
「『夜のご奉仕』のお時間です。入室を許可していただいてもよろしいでしょうか?」
ドラゴンメイド姉妹だ。
あまりの状況に
「……なんなんだ。どうしてこんなことになっている」
まさか、これも試練なのか……?
あるいはモンスターとはいえ命を
いや、落ち着けアーカンソー。
感覚共有レベルが下げられなくても、俺が目を開けていればスライムの視点には切り替わらず、シエリの裸は見えない。
そもそも冷静に考えてみれば、俺がシエリの裸を見ているだなんて、わかるはずもないのだ。
これ以上ふたりを待たせるわけにはいかない。
乗り切るぞ!
「……よし、入ってくれ」
俺は手袋をキュッと直して覚悟を決めた。
◇ ◇ ◇
「うっ……!!」
「ご主人さま、だいじょぶ? どこか痛かった?」
う、うつ伏せが思った以上にきつい!
背中を押されるたびに体のある箇所にダメージが入る。
せっかくウィスリーが一生懸命になってくれているというのに、マッサージがまったく堪能できない!
「ごめんね。あちしが下手くそだから……」
違うんだ。
ウィスリーは何も悪くない。
すべて俺が悪い。
「ぐぅ……」
そう言わなければならないのに、ダメージで言葉が出ない。
「ちゃんと丁寧にやらなきゃ駄目でしょ、ウィスリー」
「う、うん。ごめんねご主人さま、もっと優しくするね」
ウィスリーが健気な手つきでマッサージを再開した。
日頃の練習の成果なのか、実に的確に肩甲骨の間を刺激してくれる。
「おお、それだ! そのまま続けてくれウィスリー!!」
「あい!」
よーし、体重で押し込まれなければなんとか我慢できそうだ……。
と、油断して目を
「ぬわああっ!!」
「どうしたのご主人さま! そんなに痛かった!?」
「な、なんでもない。大丈夫だ!」
やはり目を瞑るだけでスライム視点になってしまう!
先ほどから瞬きするだけでもチラチラ見えてしまってはいたが、ずっと見えているより逆に刺激が強いのは新たな発見……いやいや、そんなことを考えている場合ではない!
とはいえ瞬きをまったくしないのは不自然だし……。
「す、すまないが例の目隠しをつけてくれないか?」
「かしこまりました」
メルルが目隠しをしてくれる。
これで俺が可能な限り瞬きを我慢すれば問題はクリアだ。
「んー、これ以上はのぼせちゃうわね。ピューちゃん、あがりましょ」
「ピュイ~」
どうやらシエリの湯浴みも終わりのようだ。
助かった。これでようやく――
「ほら、おいで!」
「ピュイ!」
ぽよんぽよん。
「
「ご主人さまが鼻血をっ!?」
「すぐに止血をっ!!」
◇ ◇ ◇
次の日。
十三支部で合流したシエリが驚愕に目を見開いた。
「アーカンソー、顔が真っ青じゃない! 大丈夫なの!?」
「あ、ああ。少々血を失うトラブルがあってな。肉でも食べれば回復するさ……」
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