第12話

母にその話をしても、母は「絶対に」私の言い分を信じようとしなかった。頑固として、あの子は「キモイ」なんて言っていない、なぜならあの子はまだ5歳なのだ、これから小学校にあがるという子供が、知らないおばさんに向かって、キモイなんて言うはずがない。第一、そんな言葉知らない。

母には多分に、弟の娘だからよい子だと思いたいというバイアスが働いていたように思う。近頃の子は小学校に上がる前からそういう言葉を知っている。母は私の被害妄想を疑っていて、病院に電話をかけたり、薬をもらいに行ったらどうかなどと言い出したので、あの子がやってきてから、家の中で口論が絶えなくなってしまった。

あの子はどうかというと、狭い家の中で、母と私が口論するのを見て、楽しんでいるようでもあった。感情がないのかというくらい、動じない子だった。私などのために動じるのはばかばかしいと思っているのかもしれない。自分が原因で大騒ぎになっていることをわかっているのだろうかと思ったが、母は私があの子に近づくなとくどくどと命令したので、私も部屋の中に入っていくことはなかった。それでも、あの子のいる部屋の前を通るたびに、キモイという吐き捨てるような女児の声が聞こえてきた。

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