第13話

あの子がやってきてから、それまで自分にとって最適化され、ありとあらゆるものが自分になじんでいた、世界で最も安心できる空間であったはずの家の中は変容しはじめた。固形だと思っていた世界は、ゆっくりと流動的に変化し始め、それはあの子が来る前にあったかたちではなくて、別の何かに変化しようとしていた。しっかりした樹木が溶け始めてバターになっていったように、私にとって世界で唯一安心できる<家>はすごい勢いで別の見知らぬ空間になっていこうとしていた。

家の中に知らない人間た1人入ってくる、しかもその未知の相手は小学1年生だというのに、私は非常に神経質になった。狭い木造の家だったが2階建てであったために、洗面所と風呂を使おうと思えば、あの子がこもっている部屋(あの子は2階には絶対に上がらないというのは、あの子がやってくる前に、私と母で取り決めた契約の一部であった)の、閉め切っている戸の前を通らないと無理だった。

あの子が小声でぼそっという「キモイ」が老母に聞こえないのも無理はなかった。だいぶ耳が遠くなっていたし、母には愛する自分の息子の娘が、そんなひどいことを口にする悪い子であるはずがないのだった。

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