第11話

私がその弟の上の娘に最初に会った日、その娘は私にだけ挨拶をしなかった。挨拶どころか、それからちょっとして、台所に立っていた私を見据えて、その娘ははっきりと「あ、あのキモイ人いる」と言ったのだ。その時、この娘の母親(と、それを選んだ父親)がどういう人種であるのか理解した。

父親である弟が、娘に何かを注意しているのを、戸の前を通り過ぎる時に見た。離婚して、娘を実家の老母に預けることになった。老母の家には、独身の姉が暮らしているが、姉を見て悪口を言うな…とかなんとか。娘の耳には、果たして弟の話が聞こえているのか。老母はある日、私にあの子を市の発達障害支援センターに連れていきたいと思うがどうか?と質問してきた。どうもあの子はおかしい。

「実の母親に虐待、育児放棄されて育ったようなものだから、普通に大人の話が聞けないんじゃないの」と私は母に言った。あの子は、私が住んでいる家にやってきてから、しばらく経っても私のことは存在ごと無視して、こちらから挨拶をしても一切目を合わせようともせず、口をきこうともしなかった。あの子が寝起きしていたのは1階だったが、その部屋の前の戸を通り過ぎようとすると、ぼそっと「キモイ」という声が聞こえてきた。

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