第9話

「お母さんはいつも怒ってる」と、その上の娘が母に言ったそうだ。母が東京に遊びに行ったときのことだ。

妻は上の娘のすることなすこと、何もかもが気にいらなかった。幼稚園から持って帰ったプリントは、娘の顔の前でビリビリに破いて見せた。こんな問題も解けないのかと平手打ちにして、園で描いた絵は気にいらない、もっとうまく描け!と当たり散らした。気にいらないことがあれば、すぐに家族に当たるので、皿やらカップが飛んでこないかといつも身構えていなければならなかった。食事も一切作らないので、家族分は弟が黙って用意したが、妻は「不味い」と一言だけ言って弟の見ている前で捨ててしまった。弟のスマホには、罵倒とも呪いとも罵詈雑言とも言えないような感情的な糾弾メールが長文で毎日送信されてきた(弟は後の証拠用に保存しておいた)。妻は家の中では、下の娘だけは乱暴なことはしなかった。

私の母は、結婚した息子の家の中を逐一、弟か向こうのお義母さんからLINEで聞いていた。妻の実の親にしてみても、娘の癇癪の激しさは知っていても、一緒にいれば自分たちも怒鳴られるのでどうしようもなかった。話を聞いていると、正気なのだろうかと私も思った。

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