第5話

弟は「安心して。俺より学歴も年収も高い嫁さんだから」と父母の前でほがらかに言い切り、40歳超えての結婚だというのに都内の最高級ホテルを借りて式を挙げ(嫁の側のたっての希望だったらしい)新婚旅行はヨーロッパ…のはずだったのだが、ここで一度、影が差した。その影が差したとき、弟の結婚を眺めていた人たちはそれが後々も続く影であることに気がつかなかった。でもその影はその後も消えることはなく、頻繁に陽の光を遮るように変化していった。

嫁の体調がおかしくなったのは、最初の子を産んでからのことだった。母が私に「開頭手術が必要なんだって…」と言ったとき、カイトウが開頭だとすぐわからなかった。何かの病気?脳腫瘍の疑いがあるって、病院を変えるみたい。それから、片目がほとんど見えないんだって。

母はどんな気持ちだったのかわからない。でも、結婚が決まってから、表面は若いふたりを応援しているようでも、息子をとられた感でいっぱいだった。孫は可愛いが、あの専門職の嫁がどうも気に入らない。私には、嫁に対する愚痴とも嘆きとも言えないことを話し始めるのが母のつねだった。あの子は、恋愛経験が乏しかった、遊んでいれば女を見る目が出来てくるだろうだろうけど。

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