6.リーラン王国

その1

 リーラン王国王都カイエスに入港直後、リ・リラとエリオは女王ラ・ライレに呼び出された。


 エリオだけだったら、こんな事はなかっただろう。


 だが、今回はリ・リラが一緒であり、立太子の礼後の事だったので、呼び出された。


 謁見の間ではなく、女王の私室に呼び出されたので、内々の事として処理するつもりらしかった。


 2人が入室し、挨拶をしようとしたが、ラ・ライレはそれを遮った。


「エリオ、あなたがいながらこの失態、どうするつもりですか!!」

 ラ・ライレはいきなりエリオを叱責した。


 これは言うまでもなく、いつものラ・ライレらしくなかった。


 内々の事と言うより、完全に親戚のオバちゃんの乗りだった。


 普段冷静であるラ・ライレも、2人の事になると、こうして、我を失う事が度々あった。


「……」

「……」

 エリオとリ・リラはらしくない女王を見て、唖然としてしまった。


「エリオ!!」

 ラ・ライレは何も言わないエリオに対して、詰め寄った。


「へ、陛下、今回の事はわたくしの指揮の下、行った事です」

 リ・リラはエリオとラ・ライレとの間に割って入った。


 その言葉を聞いたラ・ライレはすぐに状況を理解した。


「そうですか……」

 ラ・ライレはそう呟くように言うと、ヘナヘナと後ろに下がった。


 そして、そのまま椅子に腰掛けた。


「わたくしとした事が、取り乱したようですね。

 申し訳なく思います、エリオ」

 ラ・ライレはいつもの女王の威厳に満ちた口調に戻り、謝罪もした。


 そして、2人に椅子を勧めた。


「とんでも御座いません、陛下。

 殿下の身を危険に晒したのは紛れもない事実ですから」

 エリオはそう言いながら一礼して、椅子に腰掛けた。


「!!!」

 リ・リラはエリオの言葉にムッとしながらも、黙って椅子に腰掛けた。


 エリオの言葉が自分への当てつけだと感じたが、ラ・ライレの手前、大人しくする他なかった。


 勿論、エリオは当てつけのつもりでそう言っていた。


 久々にリ・リラから一本取った気になっていた。


「それにしても、今回は随分と無理をしたものですね、リ・リラ」

 ラ・ライレは孫に諭すように言った。


「そうでもないですよ、陛下。

 もし、無茶な事でしたら、クライセン公が死んでも止めていたでしょうから」

 リ・リラは不適・・な笑みを浮かべた。


「いっ……」

 エリオはリ・リラの言葉に絶句した。


 これは明らかに、自分を共犯にしようという魂胆が見え見えだと感じていた。


 リ・リラは絶句したエリオを横目で見ながら、やり返したとガッツポーズを心の中でしていた。


 強制された側の人間が、完全に共犯になってしまった。


 でも、まあ、傍目から見ると、とっても残念な2人のやり取りだと思う人間は結構いるだろう。


 もう少し違うやり取りがないのだろうか?


 ラ・ライレも多分その1人だ。


(何とも子供っぽいやり取りですね。

 色も何もあったものではないですね)

 ラ・ライレは呆れながら2人を見ていた。


「それに政治的な効果は絶大だと思います」

 リ・リラはダメを押すかのように、言葉を付け加えた。


「???」

 エリオはリ・リラの言葉の意味を理解できなかった。


 エリオは戦場での采配と違い、政治という点ではまだまだのようだった。


 そうではなかったら、あんなに易々とホルディム伯に牛耳られる事はないのだろう。


「ふっふっふっ……」

 ラ・ライレは対照的な様子の2人を見ながら、もう笑うしかなかった。


 正直言って、今の2人の関係はラ・ライレが期待しているものとはかけ離れていた。


 北へ進みなさいと言っているのに、全力で南へ向かっているような感じだった。


(しかし、まあ、2人で協力して事を乗り切ったのだから良しとしましょうか……)

 ラ・ライレは取りあえず無理強いをせずに、見守る事としたようだった。


 でも、まあ、北からでも南からでも、一方はかなり遠回りになるが、同じ目的地には辿り着ける。


 この世界の地球も丸いのである。


「ま、それはともかくとして、リ・リラ、成人おめでとう。

 これで、あなたも一人前の女性ですね」

 ラ・ライレは女王の顔から祖母への顔へと変化していた。


 とても嬉しそうだった事は言うまでもない。


「ありがとうざいます」

 リ・リラも満面の笑みを浮かべていた。

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