その16

 エリオ艦隊はその後、攻撃を受ける事なく、アリーフ残存艦隊と合流に成功した。


 そして、進路を東に変更して、リーラン王国へ帰途へと着く事になった。


「閣下、そう言えば、ホルディム艦隊はどうしたんでしょうかねぇ」

 シャルスは一息ついた所で、ぼそっとそう言った。


 ホルディム艦隊は伯爵自身が指揮している艦隊で、アリーフ艦隊とは別である。


 念の為……。


「あっ!!」

「あっ!!」

 エリオとマイルスターは同時に声を上げて、顔を見合わせた。


 2人共、すっかり忘れていたと言った感じだった。


 ホルディム艦隊はこの一連の流れでは、後詰めの役割を果たしている筈だった。


 そう、リーラン王国艦隊が戦闘状態に陥った場合、速やかに駆け付ける手筈だった。


 本当は、この役をエリオはアスウェル艦隊に任せたかったのだが、ホルディム伯が強引に捻じ込んだ経緯があった。


 それなのに、その役割を全く果たさなかった。


 まあ、エリオ自身、忘れるくらい当てにしていなかったので、どうでもいい事なのかもしれない。


 おっほん……。


 微妙な空気の中、ちょっとかわいい咳払いがした。


 咳払いの主はリーメイだった。


「それより、殿下、そろそろお戻りを」

 リーメイはホルディム伯みたいな些細な事はどうでもいいと言った感じだった。


 リ・リラはリーメイにそう言われて初めて自分が何をやっているかに気が付いた。


 そして、リ・リラはさっとエリオから離れた。


「そ、そうね……」

 リ・リラはそう言うと、バツの悪そうな表情をした。


 リーメイはリーメイで、しまったと言った感じになった。


 だが、侍女らしく、極力表には出さないようにした。


 リ・リラはリ・リラで、ちょっと気まずいような恥ずかしいような感じで、歩き出そうとした。


 おっほん……。


 リーメイの咳払いが再び炸裂した。


 可愛らしい咳払いなのだが、この場を支配しているのは誰かを示すものだった。


 それでも動こうとしない人物に、リーメイは苛立ちを覚えていた。


 勿論、侍女らしく、表には出さないでいた。


 リーメイは仕方がないので、別の人物を使って、その人物を動かそうとした。


「えっ……」

 突き刺すような視線を受けたシャルスは息を呑んだ。


 実際は、ちらっと見られただけなのだが、空気読めないシャルスが感じるほどの気配だった。


「閣下ぁ……」

 シャルスは驚きのあまり声が裏返った。


「……」

 それにびっくりしたエリオは無言のままシャルスの方を見た。


「ここは小官達にお任せになって、殿下をお送りしては如何ですか?」

 シャルスは自分でも思うほど、珍しい事を口にしていた。


 リーメイがなせる技である。


「えっ……」

 言われたエリオも更にびっくりしていて、どう言うリアクションを取ればいいのか分からなかった。


 ただ、目に入ったマイルスターがうんうん頷いていた。


「ああ、分かった……」

 エリオは何だか腑に落ちないようだったが、それを承諾した。


 マイルスターとシャルスはそれに対して、敬礼した。


「では、殿下、行きましょうか」

 エリオはそう言うと、リ・リラと共に艦内へと向かった。


 2人の後を3歩下がって、リーメイが続いた。

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