その4
ドン、ドン……。
ヒュー、ヒュー……。
ばしゃ、ばしゃ……。
前方で砲弾が海面に立て続けに落ち続けていた。
「……」
艦上でそれを見ていた艦隊指揮官のルドリフ・ハイゼルは思わず固まってしまった。
隣にいた参謀エンリックも同じ反応をしていた。
「敵艦隊、砲撃……の模様……」
副官であるステマネだけは辛うじて状況報告をしたが、とっても歯切れが悪かった。
「うん、分かっている……」
ルドリフは副官の反応に苦笑いした。
着弾地点はルドリフ艦隊の遙か前方であり、これにビビるのは撃った本人以外いないのではないかと思われた。
しかも、砲撃は散発的だった。
撃った砲撃手も当たらない距離だと分かっているような感じだった。
「全艦停止」
ルドリフは静かに命令を下した。
「全艦停止!」
ステマネは上官の命令を復唱して、伝令係に指示を出した。
すると、すぐにルドリフ艦隊は一気に速度を落とし、全艦が停止した。
「よろしいでのですか?」
エンリックは一応確認した。
「あの砲撃の中に突っ込んでいくの俺でも馬鹿馬鹿しいと思うからな。
それに、止まって、狙い撃ちした方がいいだろうよ」
ルドリフは再び苦笑いした。
いや、どちらかと言うと失笑かも知れない。
「確かに……」
エンリックも同意した。
正しい判断とは思いながら、違和感は拭い切れないでいた。
ルドリフは本来慎重という言葉には無縁の存在であり、勇猛果敢に攻め立てる事を得意としていたからだ。
それでも、命令に忠実で、良将とされていた。
こういう風に対応できる点からもその評価は間違っていないだろう。
でも、まあ、今回、勢い余って飛び出してしまったのは、小僧の存在が原因だった。
ドン、ドン……。
ヒュー、ヒュー……。
ばしゃ、ばしゃ……。
当たらない砲撃はまだ続いていた。
だが、一応、着弾地点はルドリフ艦隊に近付いてきてはいた。
「やれやれですね……」
エンリックは無駄な攻撃に対して心底呆れていた。
「全艦、一斉射撃態勢に移行!」
ルドリフも呆れながらも自分の職務を果たした。
ルドリフ艦隊は横3列態勢になり、ホルディム艦隊を待ち構える形となった。
飛び出してしまったが、些か頭に血が上りすぎたと反省する機会が訪れたようだった。
まあ、自分以上にはしゃいでいる人間を目撃すれば、人は誰でも冷静になれる。
正に、そんな例を見る思いだ。
当然、動いて砲撃するより、待ち構えて砲撃する方が、狙いが格段に正確になる。
ばしゃ、ばしゃ……。
砲弾は依然と海面を叩くだけだった。
「十分引きつけてからだぞ!」
敵の砲撃は近付いていたが、ルドリフは全く動じてはいなかった。
ええっと、「小僧とは誰?」と聞くのは、ただの野暮かも知れない……。
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