第32話


「……あれ?」


 体が重い。


 目の前は真っ暗だし、動いてって言ってるのに私の体が動いてくれない。


 私は今どうなっているの?


「あ、あ……声は出せる」


 声だけは出せる状況って何だろう。

 

 うーん、分からない。

 

 あれ?

 

 そもそも、私は何をしていたんだっけ?


……そうだ!


 ウユリのところに行って、イザヤの元へ向かおうとしていたはず……。


 それから……私は何をしたんだっけ。


 自問自答しているミュリエル。


 すると視界が急に晴れた。


「眩しいっ!」


 急に光が入って来た!


 そこまでされてようやく、ミュリエルは自分が目隠しされていたことに気が付く。


 段々と目を慣らして前を見ると、見たことない男が立っていた。


「目覚めたか」


「え……? 誰?」


「別に名前は覚えなくていい」


 こいつは何を言っているの……?


 この場を離れそうとするが、体が動かない。 


 目下に視線を落とすと、体が鎖で拘束されていた。


「ちょっと!? 何これ! 放しなさいよ!」


「能天気なお嬢様だな。自分が今どういう立場にいるのか、分からないのか?」

 

 不貞腐れたように言う男。


 ミュリエルの周りは鉄格子に囲まれていて、目の前には不良者のような見た目の男がいる。


 建物自体老朽化しているのか壁は脆そうで、逃げ出そうにも拘束されていて動けない。


 まさか……。


「分かったか? お前は攫われた訳だ。まあ諦めろ」


「……いいから放しなさいよ! 私にこんなことして、どうなるか分かっているの!?」


「諦めろって言っただろうに……お前がどんなに叫ぼうが、助けはこねぇよ。ここはお前の家じゃねぇんだ」


「分からないでしょ!? 罰せられたくないなら放しなさい!」


「うるせぇぞ!」


 男がミュリエルの顔を勢いよく蹴る。


「黙ってろ。それかもう一発欲しいのか?」


「……」


「チッ……最初からそうしとけガキが」


 唾を吐き捨て、何処かへ去って行く男。


 ミュリエルは蹴られた部分をさすろうにも、手が縛られている。


 痛いよ……。


 顔が痛いよ……。


「……なんでこんなことをされなきゃいけないの……?」


 イザヤの元へ向かおうとしただけなのに、それがいけなかったの?


 もう分かんないよ……。


「……誰か……助けて」




 



 




「どうしてここにいる?」


 急にどっからか声が聞こえた!? 


「誰!?」


「……あたしを忘れたのか?」


 え?

 

 そういえば聞いたことのある声……あ!?


「ウユリ!?」


 天井から降って来るウユリ。


 なんで上から来たの!?


「大きい声を出すな。それよりお前、どうしてここにいるんだ?」


「知らない……けど気が付いたらここにいて」


「……そうか。早くここを出よう」


 頷くミュリエル。


 しかし拘束のせいで動けない。


「外して!」


「ああ、動くなよ」


 そう言うとウユリは鎖を手だけで破壊した。


 コイツ化け物でしょ……。


 鎖が無くなったことで立ち上がれる、足も手も動かせる。

  

 この解放感気持ちいいわ!


「そういえばなんてアンタがここにいるの? 私を助けに来てくれたの?」


「違うが……結果的にそうなったな。タイミングが良かった」


「……? 意味は分からないけど褒めてあげるわ」


「そうか。ここは危ない。早く出るぞ」


「分かった」


 真剣な表情でウユリが言っている。


 何となくここが危ない場所なのは私だって分かる。


 黙ってあげるから、ちゃんと安全なところまで案内しなさいよ!


 鉄格子を向け、ウユリの後ろをついていくミュリエル。


 廊下の壁はところどころ崩壊していて、瓦礫が散乱している。


 足元を注視しながら歩かないと転んでしまうかもしれない。


 ミュリエルが下を向きながら歩いていると、ウユリの背中にぶつかる。


「いたっ! どうして止まるのよ!」


 続けて文句を言おうとするが、口を塞がれる。


いいいうあい息しずらい!」


「……待て」 


 いつになく真剣な顔で言われる。


 一体何があったのだろうか。


 ウユリの隣まで移動し奥を見ると、男たちが何やら話しをしているのが見える。

 

 その中には私を蹴って来た男もいた。


 アイツ、コテンパンにしてやるんだから!


「……外に出るならここを通るしかないが」


 けどあいつらにバレてしまうってことでしょ?


「それなら壁を破壊すればいいんじゃないの?」


 コイツの最大の特徴は人間離れした力。


 建物の壁を破壊するくらい、造作もないはず。


 壊した衝撃で建物自体が壊れないかは心配だけど。


「……そう、するしかないのか」


「本当にやるの?」


「ああ。壁を破壊したらお前はそこから外に出て屋敷へ逃げろ」


「分かった」


 これでこの危ない場所からおさらば出来るのね!


 あれ?


 お前は逃げろって……ウユリはどうするの?


 私が聞こうとした時には遅かった。


 ウユリは剣を抜き、壁に向かって振り下ろす。


 壁は勢いよく壊れ、人が通るには十二分な大きさの穴が出来た。


「早く行け! 振り返るな!」


「う、うんっ!」

 

 ぴょんぴょんと瓦礫を乗り越えて進む私。


 雨は相変わらず沢山降っていて、抵抗感がありながらも外へ逃げ出した。


 後ろからは男たちの声が聞こえる。


 少女はウユリの言いつけを守り、後ろを見ず逃げていった。
















「お前誰だ!? 一体何をしたんだ!?」


 眼前に陣を取って武器を構えてくる男たち。


 どうやらただのチンピラではないようだ。


「答えろ女!」


 答えてくれると思って彼らは言っているのだろうか?


 だとしたら憐れだ。


「静かにしろ」


「調子のんじゃねぇぞ! 抵抗するならどうなってもしらねぇからな?」


 五月蠅い。


 全く以て五月蠅い。


 私は剣を彼らに向けて構える。


「もう一度言う静かにしてくれ」


「やるぞお前ら!」


 私へ向かって一目散にやって来る男たち。


「まあ、もうすぐ嫌でも静かになるだろうが」


 剣は人を写す。


 ならば私の剣は、人殺しの剣だ。

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