第27話
私は今日も今日とて、部屋の中でありのままに振舞う。
「イザヤ―」
いつも通り私の使用人を呼び、私の言うことを聞いてもらう。
「暇!」
「それは要望ですか……?」
「暇だから何かやって!」
「それは私じゃなくてアリシャさんに言ってください」
「ぶー」
イザヤが最近冷たい気がする。
「ねぇ、イザヤ。何で太陽は一つだけなの?」
「すみません……アリシャさんに聞いてください」
ほら冷たい。
何でもかんでもアリシャに逃げる。
「何で月が一つしかないのか教えて! アリシャ以外で!」
「それは……ヘンリ様に聞いて下さい!」
「ということなの!!!」
気付いたら私は森の中にある、ウユリの元まで行っていた。
「第一声がそれだと理解できないぞ」
「なんでよ!」
みんなもっと理解力高めてよ。
「「ということなの!!!」の前を言ってくれ」
「だーかーらー、イザヤが最近冷たいの!」
「なに……?」
曇り顔になるウユリ。
ようやくことの重大性に気付いたのね!
「大変でしょ!?」
「イザヤが死んでしまった……?」
「物理的にじゃないのよ! 態度が冷たいのよっ!」
「……そうか」
「……アンタ本気でそう思ったの……? 重症よ重症」
「そんな戯言よりイザヤの話をしよう」
「急に冷静になるんじゃないわよ!」
ほんと嫌い!
コイツほんと嫌い!
だけど……コイツに頼るしかない。
イザヤが私の元を離れてしまうかもしれないから。
「アリシャに相談してもいいけどなんか最近忙しそうだし……アンタしかいないの! 嫌いだけど」
「嫌いな人に頼むしかないとは。交流の幅が狭いのだな」
「そういうところがムカつくの! アンタ私にだけあたりが強くない!?」
「気のせいだ」
ムカついてウユリに飛びつくがびくともしない。
女のくせにデカすぎるでしょコイツ……。
「それで、どうしたいんだ?」
「まだ気づいていないの!? 前にイザヤが冷たい態度を取って来た時があったでしょ!?」
「つまり、イザヤが辞めようとしているかも。と杞憂しているのか?」
「杞憂ってどういう意味よ……まあいいわ! イザヤを尾行するから、黙って協力なさい!」
必死にコイツを引っ張って連れていこうとするが、重すぎて動かない。
「なんであたしが手伝わなくてはいけないんだ。ミュリエルと違ってあたしは暇人ではないぞ」
「私も暇人ではないわよ!」
「ほんとか?」
「ほんとよ! いいから手伝って!!!」
ずっと駄々をこねていたら諦めたのか、連れ出すことに成功した。
そこで私たちはイザヤを尾行する為、私の部屋が見える廊下の角で待つ。
「それで、どうやって尾行するんだ?」
「いい質問ね。後ろをついていけばいいのよ!」
「能天気でいいな」
尾行なんだから後ろをついていくに決まっているでしょ。
前から行ったらバレちゃうじゃない。
「はぁ……仕方ない。好きにしてくれ」
「最初からそうするつもりよ」
最初から黙って私に協力していればいいのよ。
……あ、イザヤが部屋から出てきた!
よし、後をそろりと……歩いて……歩いて。
「……ん? 誰かいるんですか?」
イザヤが振り返ろうとしている!
不味いっ、急いで隠れないと……。
私は見えない位置までダッシュした。
バレてない……?
「気のせい……なのか?」
少しすると、イザヤが歩き出す音が聞こえてきた。
よし……バレてないみたい。
イザヤを確認する為、顔をちょこっと出すと、目の前にイザヤの顔があった。
「わっ!?」
「……お嬢様。何をしているんですか……?」
なんでバレてるの!?
何とか取り繕わないと。
「あーっえーっとー……お、おままごと!」
「は、はい……? おままごとしてたんですか? ここで?」
「そ、そうよ! だからあっち行って!!!」
「はあ……分かりました……」
誤魔化すことに成功……した?
腑に落ちない顔のまま、イザヤは奥に歩いて行った。
「……ふぅ、危ない危ない」
「危なかったな」
背後から声がし、反射的に振り向くとウユリが立っていた。
コイツどこに行ってたの!
「なんでついて来てないの! 私を助けなさいよ!」
「助けはいらないと思った」
「助が要らなかったら最初からアンタに声をかけてないでしょ! もし私がさっきみたいにピンチになったら、颯爽と現れて助けなさいね!」
「……はぁ」
「溜息は肯定ってことよね! 分かったのならちゃんと働きなさいよ!」
「それはそうと、イザヤを追わなくていいのか?」
そう言われて奥を見ると、イザヤの姿はなかった。
「……早く追うわよ!」
急いで後を追うと、イザヤは屋敷の外に行く。
「訓練でもしにいくんじゃないのか?」
「……分からない。何か分かるまで後を追うわよ」
バレないよう慎重に後を追って数十分、イザヤが辿り着いたのはスギレン。
なんでわざわざ街の方まで……って、あれは……。
「……アリシャ?」
街の入り口で、アリシャがイザヤを待っていた。
合流した二人は街の奥へと進んでいく。
勿論私たちも後を追っていく。
「二人で何をしてるの……」
イザヤたちはどこの店にも入る様子がない。
一体何のために来たんだろ……。
「デートでもしているんじゃないか?」
「デートっ!?」
びっくりして大声を出すと、ウユリに口を塞がれる。
何するのよ!
「静かにしろ。バレてもいいのか?」
「……
コイツの言う通りにするのは癪だけど、今回だけは正しいから言うことを聞く。
するとウユリが手を離してくれる。
私は一回情報を考え直してみた。
「デート……イザヤとアリシャが付き合っているってこと?」
「デートと仮定するならそうなるな」
私に冷たい態度を取っておきながら、イザヤたちは仲睦まじくデートしていたの!?
イライラしてきた!
「ムカつく……証拠を掴んでやるわ!」
「何にイラついてるんだ……?」
私にも分からないけど、ひたすらにムカつくの!
怒りを抱いたまま、後を追っていくと、イザヤたちが向かっていくのは街の外れの方だった。
「こっち方って……」
「知っているのか?」
「うん……前にイザヤとアリシャと一緒に来たことがあるの……」
イザヤたちと一緒に人形やストラップを買った店の方角だ。
「そうか。後を追うぞ」
「あっ、ちょっと! 待ちなさい!!!」
なんで急にやる気になっているのよ!
置いていかれないようにウユリの袖を掴む。
するとウユリはめっちゃ早く動き出した。
ちょちょちょっと!
早く動きすぎだって!!
本当に人間なのコイツ!?
「……はぁ……はぁ……気持ち悪い」
「鍛えた方がいいな。あたしでよければ手伝ってやるが」
「結構よ! アンタに教わることなんで何も無いわ! むしろ私から色んなこと教えてやるわよ!」
私が文句を言っていると、ウユリが関係のない方向を見ている。
釣られてみると、二人が人形たちを買った店に入って行った。
「やっぱりデートなの……? 私を除いて……」
イザヤのこと、信頼してたのに……。
私って要らない子なの?
「……そうと決まった訳じゃない」
というと、ウユリは私を掴み上げて、店の方へと歩き始めた。
「何してんの!? は、離しなさいよ!」
必死に抵抗しても全く身体が動かない。
この女、力強過ぎでしょ!
「物事を確認する前に判断するな。気になるなら自分で確認すべきだ」
「尾行って言葉知ってる!?」
ウユリはこのまま店へ近づいてく。
そうしたら、逆に店の扉が開いた。
「……お嬢様? それと師匠まで……?」
出てきたのはイザヤだった。
「何故こんなところまで……」
「えーと……取り合えず離しなさいよ!」
「……ああ、軽すぎて持っていたこと自体忘れてしまっていた」
解放され私は伸び伸びと着地した。
ついでにコイツの足も蹴っておく。
「それで……どうしてですか?」
「お、お、お、お、おままごとしてた!」
「さては尾行していましたね?」
「ギクッ、そ、そんなことないわよ! ね、ウユリ!」
「ああ。ミュリエルがどうしてもと言うから、二人でお前をつけていた」
「なんでばらすのよ!」
ずっと思ってたけど、コイツ空気読めなさすぎでしょ!
これだから勉強してない野蛮人は嫌いなのよ!
「騒がしいですね……ってあれ、ミュリエルお嬢様? どうしてここに……」
「アリシャ―! もうアンタのこと許さないから!」
「はいっ!? アリシャです……私何かしましたか?」
「失望したわよ! 一生小指を角にぶつければいいわ!」
泣いて謝っても許さないんだから!
一生後悔するといいわ!
怒りをぶつけていると、ウユリが溜息を吐いてイザヤに話しかける。
「はぁ……仕方ない。イザヤたちは何をしてたんだ?」
「え? あーえっと……言っていいんですかね?」
「言いましょう……じゃないと私ミュリエルお嬢様に恨まれそうなので」
もう恨んでるわよ!
アリシャが私に何やら差し出してきた。
「これ! 誕生日プレゼントです!」
「……え? 私の誕生日まだじゃない?」
「そうですよ。予め買っておこうと思って、イザヤさんと買い出しに来ていたんです……けどバレちゃったんでしょうがないかなーって」
そうだった……の。
つまり、私の勘違いってことよね……?
「……ごめん」
勘違いしてた。
てっきり私を置いていったと思って……。
アリシャが俯いた私の頭を撫でてきた。
「謝らないで下さいミュリエルお嬢様。私からはこれを」
と、何かを私の手に握らせてきた。
「これは……うさぎの人形……?」
「そうですっ! お嬢様の手元に二個あれば、前回と同じようなことが出来るでしょう?」
前回と同じ……そういうことね!
「ありがとうアリシャ!」
「はい! アリシャです!」
嬉しい!
まさかこんなに嬉しいことになるなんて!
「お嬢様。私からはこれを……」
イザヤが差し出してきた、布で隠れた物を掴む。
え、なに!?
結構重い!
布を持ち上げると……金属の塊が出てきた。
「何これ」
「儀礼用の短剣です。護身用として使ってください」
「短剣って……包丁みたいなやつ?」
「そうです。包丁の一回り大きいバージョンです。もし私がいない時に何かあったら困るので」
これが……プレゼント。
重いだけの金属の塊……。
「イザヤセンスない!」
「いやでも……実用性大ありですよ?」
「そうだけどそうじゃないの! けどありがとう! 二人共許してあげるっ!」
センスはないけどイザヤにプレゼントされたって時点で嬉しい!
イザヤたちとワイワイしていると、店の扉がまた開いた。
現れたのは二人の女性。
「賑やか……ですね」
この人は……この店の店員の人だ!
「私もいますよ!」
こっちの方は……、
「……あっ、スムージーの人だ!」
「そうです、スムージーの人です! たまたま妹の元に来ていたら、賑やかなことになりましたね!」
「商売……繁盛……」
「本当に賑やかだな。こういう空気も悪く無いか」
イザヤにアリシャ、ウユリに店員姉妹……。
私を含めて六人もいる。
気付いちゃった……男はイザヤしかいないじゃん!
本人は何気ない顔でいるけど。
みんなで仲良く話していると、日が沈んできた。
「お気をつけください……最近は何やら危険ですから」
するとスムージーの人が、心配そうな顔で言ってきた。
「危険? どういうこと?」
「実は……ここら辺は数年前まで普通の住宅街だったんです。けど急に治安とか空気が悪くなって、それで私は街の中心の方に移って店を出したんです!」
「そんなことが……」
「しかも最近、余計にここら辺の治安が悪化しているらしくて……妹にこっちへ来いって何回も言ってるんですけど、頑なにここを離れようとしてくれなくて………」
スムージーの人の意見に対し、人形とか売っている人の方は首を横に振る。
悲しそうな表情だった。
「生まれ住んだ場所だから……例え危険になっても離れたくないんです……」
生まれ住んだ場所ね……。
私にとっては屋敷がそうだけど、思い入れは正直ない。
最近は除いて、あんまりいい思い出はない。
だから彼女の想いは理解出来ないけど、きっと大切なことなんだと思う。
「とにかく、みなさん早く帰りましょう! ここじゃなくても、夜は危ないですから!」
「そうですね……お嬢様、帰りましょうか」
と、イザヤが手を差し出してきた。
私はイザヤの手を掴む。
「うん! 帰ろう!」
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