1章(7)『地下牢』
「うっあぁぁぁ! ひぃ! ぁぁあああ!」
甲高い悶える声が、薄暗くジメジメとした地下牢に響いた。
声の主を牢の外から冷ややかに眺める6つの水晶の飾りがつく大きな帽子を被った黒いドレスの女。
「なるほど…前よりかは魔力量が上がったか。ならこの虚構はどうだ?」
黒いドレスの女は、牢の前に手をかざす。
すると、今度は牢の中からガンッ、ガンッ……と鈍い音と「いやぁぁぁぁぁ!んっ、あん、あん、あっ!ぎぃぃぃ……!」と唸り声が上がり、牢から魔力のほのかな光りの波が黒いドレスの女の手に吸い寄せられる。
断続して奇声が響く地下牢に別の音が鳴った。
トン、トンと音を立てながら石造りの階段から二人の人物が下りてきた。
まず先に、高身長痩せ型、黒いスーツを着た、白髪で糸目の青年。
その後から、黒のスラックスにダークグレーのワイシャツ、白のフード付きロングコートを身にまとった赤のメッシュの入った黒髪ショートヘアの少女が現れる。
少女は、じっと黒のドレスの女を見つめる。その表情は硬く、
二人はレヴィアタンの後ろで
「レヴィアタン様、お楽しみのところ失礼します。厄災の王子の居所がわかりました」
「城郭都市アステーリであろう」
「おお、さすが!もう知っておいでとは!」
と、左右に手を広げて大変大げさなリアクションをして言いう青年を一度も見ることもなくレヴィアタンは高らかに言う。
「当然。眷属の海魔獣たちの視覚聴覚は共有しておる。下僕、砂漠に放ったカルハリアスとフタポーディを全て引き連れ城壁都市アステーリを強襲し、あの小僧、厄災の王子をわらわの前に連れてこい。
邪魔をするものは容赦なく全て滅せよ。相手が暴食、強欲の根源魔術使いであっても…。そこの娘ならば造作の無いことなのだろう?」
「ええ。もちろんです。彼女の
青年は、にんまりとした笑みを浮かべ自信満々に言う。
「なんでしたら、厄災の王子も生け捕りではなく回復魔術でも復活出来ないほど跡形もなく消滅させることも可能ですよ」
「ふっ、浅はかな。お前は、少しは智恵が回るかと思ったが、ただの耳が良いロバだったようだな」
冷たく呆れたレヴィアタンの言葉に、青年は口元が緩む。
「なぜですか?この愚かなロバにお教えください」
「よいか、神ヘカテイアが下した神託は魔術世界でのみ具現化する。であるのなら小僧を捕らえ異世界で殺す。さすれば神託は無に帰す」
「つまり、厄災の王子が魔王を復活させる前に速やかに異世界でしまつするということですね」
「わかったのなら、さっさと行け。わらわは、この忌々しい女で異世界転移の膨大な魔力を生みださねばならぬ」と、レヴィアタンは首に手を当て言うと眉を吊り上げた。「まったく、この女が邪魔をしなければあの時厄災の王子を始末できたものを」
首に当てた手に力が入り、爪が首の皮に食い込む。
レヴィアタンの白い細首に鮮血が滲み出したのを虚ろな少女が見た瞬間。
少女の目は大きく見開かれ、いつの間にか手に持った長い柄に湾曲した幅広の大きな刃の
咄嗟、青年の手が動く。
ブン!と、風切り音が地下牢に響いた。
大刀の刃に装飾された竜が今にも薙ぎ払わんとレヴィアタンの細首を睨む。が、長い柄を青年が掴みそれを押し止めている。
「ふむ。虚構魔術の掛かりが悪いか、ならばもう一度……」と手を少女に向けるレヴィアタンに、青年が満面の笑みで助言する。
「恐れながら、その必要は無いかと。これは、根源魔術の副作用、本能的なものです。虚構魔術では抑えられるものではございません」
「であるなら下僕。こやつの言動の監督を任せている以上しかと面倒を見よ。でなければこの娘同様に虚構魔術を掛けるぞ」と、レヴィアタンが険しい視線で脅すと青年は全身を身震いさせる。
「は、はっい!畏まりました!」青年は鼻息荒く返事をし、気持ち悪い笑みを浮かべて言った。「それではご命令通り、城郭都市アステーリを強襲し厄災の王子を捕らえて参ります。わたくしリコ、そして憤怒の
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