序章(6)『襲撃』
●
周囲を水田と川に挟まれた
「そこの男 なぜ封印魔術をかけられている?」
アイトの後ろから
振り返ると、3メートルほど後ろに、魔法使いのような大きな三角帽子を被り、肩と胸元を見せた、黒いドレスを着た女が立っていた。
アイトは驚いた。
こんなところでコスプレイヤーに出くわすとは…しかも、見惚れるほどの白い肌と艶のある長い黒髪。そして視線を釘付けにする、とても大きく膨らんだ胸。
きっと知人だと勘違いして話しかけてきたのだろう。
中学生の時にもこんな感じのノリで話しかけてきたヤツがいたなあ。
ここは、シンプルに人違いであることを言って早歩きでこの場を離脱するのみ。
「すみません。人違いです」
「何言っているの、アイトニ―?」
「えっ!」不意のヒナタの問に驚くアイト。
「何って後ろにいる人が僕に話しかけてきたから…」
「後ろに人なんていないよ?」
「いや、いるだろう、魔法使いみたいなコスプレした爆乳の黒いドレスの女の人が!」
「ばっ、爆乳⁉ アイトニ―、寝不足で変な幻覚が見えているんじゃないの⁉ 大丈夫⁉」
本気で心配して来るヒナタに困惑するアイト。
「ピストーイン」そう口ずさむ声とともに二発の発砲音が鳴る。
とっさに音の鳴った方を向くアイト。
黒いドレスの女の手にはハンドガン。その銃口から黒と水色のマーブル模様の弾丸が高速で飛んでくる。
胸元を押される違和感で、反射的に体をねじるアイト。
弾丸はアイトの胸元を通り抜ける。それと同時にもう一発の弾丸がヒナタの横顔に直撃する。
体を強く押されたかのように、ヒナタが倒れる。
「ヒナタ!」
倒れたヒナタに駆け寄るアイト。ヒナタに何度も呼び掛けるが、返事はなくぐったりとしている。
不思議と弾丸に打たれた箇所に目立った外傷はなかった。
しかしアスファルトに強く打ち付けられたヒナタの顔には、血がにじんでいる。
「手加減をして打ったがまさか避けられるとは。 貴様、魔力を感知できているな。魔力を感じ取れるのは魔術世界のもののみ。なぜ魔術世界の人間が、俗世界にいる?」
「…………」
得体の知れない黒いドレスの女。理解不能な惨状。それだけでアイトの思考は停止し、体は硬直していた。
「黙って
その言葉でアイトの身体は無意識に動いた。その場から一気に道の端に移動する。アイトは道の端をまっすぐ全力で走りながら、黒いドレスの女に近づく。
「血迷ったか!」
連続した発砲音。無数の弾丸が斜め横からアイトに襲い掛かる。
高速で飛んでくる弾丸を正確に見切って避けることなど不可能だ。
しかしアイトの身体には、放たれた弾丸の一発一発の違和感が伝わっていた。
本能的に体が、違和感を避けるように動く感覚がする。
放たれた弾丸は、すべてが急所をそれ手足に擦り傷を負わせるだけだった。
「えーい!ちょこまかと‼」
魔力を感知できても、反応できるはずのない速さの攻撃なのに、一撃も致命傷を負わせられないことに、
「エィラフィ ポリヴォロ!」と唱える黒いドレスの女。手のハンドガンが、マシンガンに変化し容赦ない弾丸の雨がアイトに飛んでくる。
すかさずアスファルトを蹴るアイト。低く飛び跳ねると、前受け身をして弾丸をかわす。ついに、黒いドレスの女の真横に無数の擦り傷を負ったアイトが立つ。
「ウォォォォォ‼」と雄叫びを上げて迫るアイト。
怯んだ黒いドレスの女が後ろに下がる瞬間、アイトの両手がマシンガンを掴んだ。とっさにマシンガンを手放し後ろに下がる黒いドレスの女。
目の前には銃口を突き付けるアイトの姿が。
目を見開き、激しく息を吐きながら激昂するアイト。
「ようがあるのは僕だろ‼なんでヒナタまで―」と怒りを訴えるアイトの言葉を塞ぐように、不敵な笑い声をあげる黒いドレスの女。
「ふふふふ…これで勝ったつもりか?封印魔術をかけられているような分際で、でしゃばるなよ」
黒いドレスの女がアイトを睨む。濁った水色の虹彩の中にある鋭く縦に尖った瞳孔に、たじろぐアイト。
「フシュカーナ カリィマ」
突然、マシンガンの無機質な外見が黒と水色のマーブル模様になる。さらにどんどん形状が変化し、スライム状になるとアイトの手を飲み込む。
焦りながらマシンガンだったモノを、手ばなそうとする。しかし、引っ張ることもちぎることもできない。
どんどんそれは膨張していき、ついに片手の肘まで飲み込む。
焦るアイトを、不敵な笑みを浮かべながら面白がる黒いドレスの女。
黒いドレスの女の、狂気に満ちた奇声が上がる。
「エクリプシィ‼」
勢いよく、マシンガンだったモノが爆散する。凄まじい衝撃で、アイトの体は吹き飛ばされ、土手下の草むらに叩きつけられた。
「ぐはっ‼」全身に激痛が走る。
「ふはははは‼」
黒いドレスの女の高笑いの中。痛みに悶える間もなく、アイトの意識は無くなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます