序章(4)『黒いドレスの女』

 ●

「ここが俗世界ぞくせかいか…」

 小山に建てられた電波塔の天辺てっぺんに、女が立っている。

 色白な肩と胸元を露出させた黒いドレスを着て、黒の大きな帽子を被っている。

 帽子のつばには、小さな水晶の飾りを前後に6つずつ付けていた。

 下に広がる街並みを見渡しながら、黒いドレスの女は呟く。

「この辺りにいるのはたしか…早々に彼の者を見つけねばなあ」

 高所に吹く風で、帽子の飾りが小さく揺れ、背を隠すほど長い黒髪は大きくなびく。

 腕を組み、大きな胸を下から支える。左の肘を立てると、唇に人差し指を置き考える姿勢を取る。

「されど… 魔力あるまじき俗世界に、こうも無数の魔力反応があるとは」

 黒いドレスの女の目には、無数の光が建物や道行く人が持っているものから点在して映っていた。

「……あれは」

 一箇所、他と比べて大きな光を放つ建物が目にまる。

「他よりも、遥かに大いなる魔力反応… 怪しい…」

 一呼吸する黒いドレスの女に合わせ、帽子の飾りが小さく輝く。

「アルマ」と小さく唱える。

 すると黒いドレスの女は、その場から飛翔する。風を切り長い髪を上下させながら、周囲の建物の屋根から屋上へ飛び移り移動する。

 後を追うように黒い雲がどこからともなく現れる。

 黒いドレスの女の行先には、2階建ての古民家と小さな道場があった。


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