巨乳好きな俺が、貧乳彼女とお別れするまでの物語

寺岡 黙

グッバイ、おっぱい。

 俺には彼女がいる。しかも優しくて、かわいい。友達からの評価も最高で、完璧な彼女だ。ただ、一つだけ物足りないところがある。

 


 それはおっぱい。



 彼女のバストはBカップ。めちゃくちゃ小さいわけではないし、美人で、優しくて、料理もうまくて、俺の話によく笑ってくれる最高の彼女に、これ以上を求めるのは欲張りすぎと自覚している。

 

 彼女とは高校で出会い、酸いも甘いも全部一緒に経験してきた。そして俺を、男として成長させてくれた。俺ももちろん(おっぱい以外の)成長を見守ってきた。これからも、ずっとそうだと思っていた。

 

 俺たちの関係性が、徐々に変化するきっかけになったのは、お互い違う大学に入ったことだろう。遠距離とまではいかないが、高校生活と比べると、会う頻度はとても落ちた。それによりすれ違いが起こり、喧嘩も増えた。

 

 そんな時に、俺は出会ってしまったのだ。巨乳と。

 

 付き合いで行った大学の飲み会に、その子がいた。不覚にも目を奪われた。そのおっぱいに。

 

 背は低く、愛嬌のある感じ。そしておっぱいが大きい。気さくな感じで、俺にも話しかけてくれた。それにおっぱいがデカい。話も合った。おっぱいが揺れる。俺は、彼女がいないと言ってしまった。心が揺れてしまった。




 次の日、彼女から

 

 「話がある」


 と、メッセージが来ていた。彼女の方も、大学でいい男が見つかったのだろうか。向こうからフッてくれるならラッキーだなと、彼女の家に向かった。


 久しぶりに来たな、とドアを開ける。いつもと何も変わらない、整頓され、いい匂いのする彼女の部屋。ただ、いつもと違うことが二つあった。それは、彼女が泣いていること。そして、泣いている彼女を抱きしめてやれない俺。


 泣いている彼女と、それを見ている人。この奇妙な空間は、そう長くは続かなかった。


「私、余命半年なの。」






 彼女は、次の春、この世を去った。


「君が支えてくれたから、最後まで楽しかったよ。」


 これは、俺の胸の中で彼女が泣きながらも出した言葉。


 俺はこの一年、必死に看病してきた。1秒たりとも彼女から離れなかった。彼女のことを、本当は一番に思っていたからだと気づいた。

 

彼女の両親にも、何度も感謝された。友人にも慰められた。余命より長く生きれたのは愛の力、と医者が言っていた。





 やめてくれ。きっと、彼女を殺したのは俺だ。泣いている彼女をすぐに抱きしめていたら、今も生きているに違いない。本気でそう思う。


 俺は、人を愛するということが分からなくなってしまった。


 看病していたのは、本当に愛していたからなのか。償いや、情ではないと、言い切れるのだろうか。


 俺はこんな俺が嫌いだ。彼女のことは本当に愛していたはずなのに、ほんの一瞬の気の迷いで、好きな人を好きと、胸を張って言えなくなった。大好きな彼女の、短くも素晴らしい人生に、俺が泥を塗ってしまったような気がする。


 俺は、この悲しくも汚い秘密を、これからも胸に抱え、生きていかなければならない。何が好きで、何が大事か。俺しか分からないのに、俺でも分からなくなる。もう二度と、この旨の後悔はしたくない。


 もう俺には、生きてていい価値などないと思っているが、こんな情けない自分を、好きと言ってくれた彼女のために、今日も頑張ろうと思う。



 彼女が好きと言ってくれた自分は、今日も生きる。

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