第9話 死活問題!
俺の名前は駄賃場夏月。
ごく普通な大学生だ。目下、今現在大学は夏休み中。
彼女もいない俺は日々、バイトに明け暮れる日々を過ごしているのだが……
「うおっ……」
そんな夜半の夏。
1人ベッドの上で苦しんでいた。その理由は、世の男性諸君なら痛いほど分かるだろう。
(やばい。そろそろあそこがはち切れそうだ)
パンツ一丁になり、熱を逃がそうと努力しても今日はなかなか火照りが収まらない。
昨日までなら、なんとか寝れたが今日はその眠気すら吹っ飛ばす。
「くっ……」
いつもならこんな事はあり得ない。ただ、ここ数日でいつもとは違う事が起こっていたのだから仕方がない。
そう、あのメリーと言う存在。
その存在が全てを狂わせた。
当たり前の様に居座り続け、その状況に慣れたのだろうか。
1つ1つの行動が良い意味で大胆ものになっていた。特にソファやカーペットに座る時なんて、
「はぁ。疲れたわぁ」
勢い良く座りやがる。しかもメリーさんの服と言えばとあのドレス。
無造作に座ったりすると……あれが見える。そうパンチラだ!
白いあれが目に付くようになったのだ。
しかも最近はどこから持ち出してきたのか、黒い半袖タイプのドレスも着出したもんだ。それも少し胸元が開いていて、前かがみになると谷間が丸見え。
そんな状況を、通常の青少年が我慢できるだろうか。
そんな中、鎮めようと試みた時だ……いざパンツを脱ごうとした途端、奴が壁を抜けてきた。
あの瞬間の焦り様……今まで経験したことがなかった。
幽霊と言えど見られたくはない。
それからというもの、いつ現れるか分からない緊張感に襲われ……今まで……
「だめだ。いったん落ち着こう。水を飲んで落ち着かせよう」
俺はいったん短パンを履くと、リビングへと歩みを進める。そして一直線に冷蔵庫へと向かおうとした時だった。
(ん?)
ソファの上にある物体に目が向いた。
薄暗いが、カーテンの隙間からこぼれる月の明かりのおかげで、何かがあることは分かる。
そして徐々に暗闇に目が慣れてくると、それが人……正確には霊だと気が付く。
(ったく、布団あるんだから部屋で寝ろよ)
それはソファで横になって寝ているメリーさんだった。しかもこっちの気も知らずに、それはそれは気持ち良さそうに寝ている。
本当に、黙っていれば年相応の女の子だ。
「……まぁ、夏とは言え何か掛けるか」
部屋の隅に置いてある物干しスタンド。そこに干されたタオルケットは洗濯したばっかりだから綺麗なはずだ。
俺は徐に手に取ると、そっとメリーさんに掛けようとした瞬間だった……
「ん……」
そんな声と共に、メリーさんは足を交差させた。
垣間見える白いパンツ。不意打ちとはいえ、今の状況においてそれは反則級の破壊力。
(おいおい!)
収まりかけていた熱か再沸騰し、そり立つテント。
しかもよく見れば、はだけたドレスから見える胸の谷間。
その刹那、限界に達した男の頭に浮かんだのは……
(むしろこんな格好で寝ているのなら、無言のОKという意味では? そうだ、そうに違いない)
なんという邪な考え。
ただ、今この状況において男の理性は暴走寸前だった。
ゆっくりとその膨らみへと手を伸ばす。
小さ過ぎず大き過ぎない……白桃に向けてゆっくりと。
そしてあと少し。あとちょっと……
(初……おっぱ……)
「ってよ……」
その瞬間、突如として聞こえてきたメリーさんの声。
慌てふためいた俺は反射的に手を引っ込める。
(危ない危ない。もしかして起きたのか!?)
その可能性を確認すべく、メリーさんの顔を眺めてみると……その瞼は確実に閉じていた。
ただ……薄っすらと流れる何かが目に入った。
(ん? これって……涙……?)
片目からゆっくりと零れるそれは、次第に両目から零れる。
寝顔とはいえ……ある意味メリーさんには似つかわしくない。
ただ、現実に……
「待ってよ……」
メリーさんは泣いている。
夢の内容なんて分からない。けど、なんとなく察することは出来た。
(幽霊でも……悲しい過去はあるもんだな。いや、その経験があったからこそ幽霊になったのかも)
人間と同じ感情を目の当たりにすると、何とも言えない感情に包まれる。
普段生意気でも、時折見せる弱さが織りなすギャップというモノだろうか。それにしてもいつの間にか頭の中はすっきりしていた。
「よっと」
俺はテーブルのティッシュで、メリーさんの涙を拭くと……そっとタオルケットを掛ける。
そしてそのまま、自分の部屋へと戻っていった。
ちなみにこの時、駄賃場夏月は知らない。
翌朝……
パンツが汚れているという……大惨事が起きることを。
シャトレー晴夢に霊ッ憑業! 北森青乃 @Kitamoriaono
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