第8話 それから数日
「ありがとうございました~」
メリーさん来襲から数日。
俺は今、何事もなかったかのようにバイトをしている。
何かしでかすんじゃないかと思っていたメリーさんは、思いの他大人しく……朝にラーメン。日中は何処かにフラフラ。そして夜にはまたラーメン。
そんな生活サイクルを送っている様だ。夜行性というイメージはどこへやら。ごく普通に出歩く姿はまさに人間そのものだ。
それに、巡さんから貰った花柄の布団一式が気に入ったみたいで愛用しているところを見ると……まさに年相応の女の子。
(あっ、帰りカップ麺買って行かなきゃな。とりあえず、あればある程機嫌は良くなるし)
ピンポーン
(っと、まずは接客接……は?)
その時だった。いつもの様に開いた自動ドアの先に見える……深紅のドレス。その見覚えのある格好に、ルーティンと化した挨拶がなかなか出てこない。
その場に似つかわしくない、ブロンドの髪。深紅のドレス。人形の様な顔立ち。
そう、奴だ。メリーさんで間違いない。
(なっ、何しに来たんだ……)
(お客さんに向かって失礼じゃない?)
その刹那、頭の中に響くメリーさんの声。
突然の出来事に俺はメリーさんを改めて凝視すると、またもやあの何とも言えない笑顔……もとい憫笑を浮かばせている。
(もしかしてテレパシーとかいうものか!?)
(まぁそんな感じのモノよ。普通になっつのバイト先が気になったから来ただけだから……いつも通り働いて頂戴)
そう告げると、奥の商品棚の方へと歩みを進めるメリーさん。
正直、その真意は定かじゃない。ただ、
(その前に、今はあれか? 霊感ある人にしか見えないモードか? 普通に見えるモードか?)
(誰でも見えるはずよ。自動ドアが反応したでしょ?)
(たっ、確かに)
一般人モードなのを聞いて安心はした。少なくとも独り言をしている状況は間逃れたのだから。
(それにしても、買い物って……お金持ってんのか?)
(失礼ね。あるわよ? 沢山ね)
(沢山って……偽札じゃないだろうな? 木の葉とかはダメだぞ?)
(ちゃんとした本物よ。じゃあ会計の時は隣の女の人にお願いするわ)
(隣って……店長?)
(えぇ)
隣に居るのは、一緒のシフトの……槻木店長。まぁ偽札の類には俺より知識はあるだろう。
そんな人物に自分から会計に行くという自信。どうやって入手しているのかは分からないが、本物のお金なんだろう。
(なにこれ~! 見た事のないラーメンがいっぱい。コンビニもなかなか凄いわね)
(新発売のお菓子……これも入れて……)
(最近のお紅茶飲料もレベルが上がっているのよね。今日は……)
……こっちの都合お構いなく、頭を過るメリーさんの声。その内容は、やはり……その辺の女子学生そのもの。
(まじで普通にしてれば……)
「お会計お願いします! あと、夏月お兄さんがお世話になってます」
「はい……って夏月お兄……さん?」
いつの間にか、レジに来ていたメリーさん。そして宣言通りに店長の方へ。更には余計な事をしてくれた。
(普通にしてれば可愛い女の子なんですけどねっ!!)
「えっ? あぁ、親戚の子なんですよ。今丁度家に遊びに来てて……」
「メリーと言います」
「しっ、親戚? ……こんにちわ。店長の槻木です」
「初めまして」
「初めまして……メリー……ちゃん? 今何年生?」
「中学1年生です。夏休み中なので、夏月お兄さんの所に遊びに来ました」
「そうなのか。じゃあ会計するね?」
「はい。お願いします」
(……おいおい。あの店長の表情が少し緩んだぞ? 今まで見た事無いんですけど……)
「じゃあ、合計で1,800円になります」
「はーい」
「大丈夫。夏月お兄さんに払ってもらうから」
「えっ?」
「こんな可愛い子にお金使わせる気か?」
「大丈夫です。お母さんからお小遣い貰って来たので。それに、夏月お兄さんにはご飯とかいっぱいお世話になってるので」
「……可愛い上に出来る子だな。じゃあ……お言葉通り貰おうかな?」
「はい」
「ありがとう。また来てね?」
「また来ます。じゃあね? 夏月お兄さん?」
「おっ、おう」
こうして、店長までもを骨抜きにし、颯爽と去って行ったメリーさん。
その所行はやっぱりレジェンド都市伝説の存在をまざまざと示した瞬間でもあった。
そしてそれと同時に、底知れぬ恐怖……もとい不安を覚えたのは、言うまでもない。
(じゃあね? なっつ。あと、店長さん……)
(んっ、ん? 店長がなんだ?
(こんな可愛い子が親戚? だっちの奴誘拐でもしてるんじゃないだろうな? って思ってるわよ?)
(はっ、はぁ?)
……暫く店長の方は見れないな。
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