第4話 駄賃場 夏月




「ちょっ、ちょっと! 霊感って、いくらなんでも……」


 ……そう。

 物心付いた頃から、俺には霊感があった。

 本州最北端。日本三大霊山と呼ばれる山が近くにある土地柄か、生まれついての家系のおかげか……とにかく小さい頃から色んなモノは見えていた。

 建物の中に道端、川や山。多くは普通の人の様にそこに居たっけ。


 けど、小さい頃からの慣れってのは恐ろしい。

 俺にとってはそれが当たり前。家族の皆も揃って霊感はあったから尚のこと。

 誰もが見えている。そう思って過ごしてきた。


 保育園では凄い能力だと思われ……


『あれ? 君なんて名前?』

『えっ? 夏月くん、誰とお話してるの?』


『えっ? そこに居るじゃん』

『誰誰? 居ないよ?』


『嘘だぁ! 何? 太郎くんって言うの? 皆一緒に遊ぼうよ!』

『本当? 僕全然見えないけど……夏月くんには見えてるの? そのお友達? すげぇ!』


『えっ? なになに? 新しい友……達?』

『うん! 太郎くんだって!』

『夏月くんには見えてるんだって! 凄いよね!』

『そうなの? わたしにはなんか黒い靄しか……』

『なに~! どうしたの?』

『面白いものでも見つけたの?』


 一部先生には厄介者扱いされててけど、同年代の子には尊敬されてた。


 小学校では興味を持たれ……


『よっ、太一。お爺ちゃん……残念だったな』

『うん。お爺ちゃん優しかったな……少し離れた所に住んでたけど、遊びに行くと必ずお菓子とか準備してくれてて……』

『あれ? 太一。お前のお爺ちゃんって……結構髭伸びてた? そんで、おでこに大きめのほくろない?』


『えっ!? そうだけど……』

『おい夏月、もしかして……』

『あぁ、太一の後ろに居るぞ?』


『ほっ、本当!? どこどこ? 見えないよぉ』

『いや太一。夏月は霊感半端じゃないから間違いないと思う。大体、お前のお爺ちゃんの顔は俺たち分かんないだろ? けど、こいつ特徴とか言い当ててる』


『そっ、そういえば……ってことは本当に今ここに居るの!?』

『あぁ。元気でなって言ってるぞ?』

『うぅ……』


 巷では会わせ屋とか言われて、なぜか憧れの的になった。死んだワンちゃんに会いたいって言われた時は焦ったな。室内犬で良かったよ。


 今思えば、少なからず霊感を持つ同級生も居た。だからこそ、その中でもハッキリとそれらが見える俺は奉られて居たんだと思う。

 そう考えると、そういうのに寛大だった土地て言うのも重要だったな。


 そんな感じで小学校生活を終えた俺は、中学1年の途中。親の仕事の都合で都市部に引っ越すことになった。まぁ、この出来事がある意味転換期だったよ。


 転校初日。早く友達を作りたかった俺は、今まで通り霊感ネタを引っ提げ新しい中学校へ。ただ、軽いジャブのつもりで放った掴みネタの反応は散々なものだ。

 その空気の違いは……流石の俺でも理解できたよ。あっ、ここでは幽霊のことは言わない方が良いってね。

 こうして今までの自分は、普通じゃないんだって気が付き始めたんだよ。


 霊感のことは口にしないで、ただひたすら学校生活を送る。もちろん目に見えるものは見えるけど、見えない振りをした。

 今までとは少し違う生活。違和感を感じつつも、これが普通なんだと言い聞かせる日々が続いた。そんなある日、俺は人生最大の山場を迎えたんだ。


 そう……初デート。学校でも良く話はしていたし、冗談だって言い合える間柄。そんな、気になっていた女の子とデートすることになり、俺はウキウキだった。

 そして当日、俺は気合が入っていた。何とか楽しませようと必死だった。

 そうだ……その為に……話を盛り上げる為に……あの封印を研いでしまったんだ。


『実はさ、俺霊感あるんだよね』

『えっ?』


『まじまじ。あそことか人立ってるよ?』

『ひっ人って……』


『あそこにも!』

『ちょ……』


『あれ? ワンちゃんが居るな? はぐれたのかな? 俺さ、結構霊感あるみたいで……』

『ねぇ。帰る』


『えっ?』

『いや、普通に……キモい! てか幽霊が居るとか普通笑って言うことじゃ……なくない?』


 ははっ。今思い出しても……その女の子の言う通りだ。初デートであそこに浮遊霊が……なんて頭おかしいよね。当時の俺もそれはそれは反省したし……ショックでもあった。

 けど、それだけだったらまだマシだったよ。


 次の日学校へ行くと、その話が広まってた。皆からの視線が冷たくて、まるで怪奇でも見るかのような眼差し。

 仲の良かった男友達も……若干距離取られたかな。女子達からは想像通り。

 そして付いたあだ名は霊感変人。

 そこからの中学生活は思い出したくない。修学旅行も文化祭も。


 人との付き合いが少なくなった俺は……とりあえず勉強に励んだ。

 そして少し離れた進学校へ入学することが出来たんだ。中学の同級生は誰も居ない。ある意味まっさらな場所。

 そんな場所で、俺は同じ轍を踏まない様に努力した。


 霊感のことは一切言わない。むしろ無い物として普通の高校生活を送る。

 それだけを心に決めた。


 おかげで高校生活は楽しかった。友達も出来たし、修学旅行も文化祭も楽しい思い出だ。彼女については、中学の時のアレがトラウマで……全然ダメだったっけ。おかげで雑誌・映像諸々を見漁る日々。


 まっ、そんな感じだったけど無事に大学進学。憧れの東京へ上京して来たって訳。


「って、聞いてるの? あなた!」


(っと、ちょっと昔のこと思い出してた。けどまぁ、まさか上京して来て数ヶ月。なんか分からないけど、今まで避けて来た幽霊とこうして話してるなんて……なんか懐かしいな)


「あっ、ごめんごめん」

「ったく。あなたやっぱり……少し変よ?」


(……変か。まぁ普通の人からするとやっぱり変なんだろうなぁ。でも、幽霊目の前だったら変でも良いよな?)


「昔言われたことあるよ。でもまぁ、何の因果かこんな霊感のある男の所に来たことだし、俺としても有名な都市伝説、メリーさんと話したいんだけど?」

「話って……まぁ確かに今まで遊んできた人達とは……違うわね」


「じゃあ決まりだ。せめて、さっき食べた味噌カレー牛乳チーズラーメンデラックス分は……聞いても良いよな?」

「まぁ……仕方ないですね」



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