第3話 金髪美少女+カップラーメン=

 



「ちゅる」


(……ん?)


「ちゅるちゅる」


(……んん!? )

 そこはいつもと変わらない部屋。

 にも関わらず、なぜ俺はテーブルの前で正座をしているのだろうか。

 なぜ目の前で、金髪の女の子が……


「ちゅるちゅるちゅる」


 美味しそうにカップラーメンをすすっているのだろうか。

(しかも、俺が大事にとっておいた味噌カレー牛乳チーズラーメンデラックス)



 少しだけ時を戻そう。

 そう、気が付いた俺が目を開けると、視界の先には部屋の電気が煌々と光っていた。

 その時点で自分が寝ていることには気が付いたけど、その過程はぼんやりとしていたんだ。

 ただ、記憶の片隅に残るレースがあしらわれた白いパンツ。まるで実際に目にしたかのようにハッキリとしたそれは、夢にしては儲けものだった。


 いい夢を見られたという満足感は、それはそれは大きなものだ。なぜか感じる腹部の痛みなんてどうってことはなかった。


 心の中は今日のおかずをゲット出来たことでウハウハ状態。そのままテーブルに手を掛けると、ゆっくりと体を起き上がらせた時。

 そうだ、なぜか居たんだ。


 テーブルの上には、俺の家にあるケトル。その横にお湯を入れただろう味噌カレー牛乳チーズラーメンデラックス。

 そしてそれを目の前に座る金髪美少女。


 まぁ理解が追い付かなかったよね。

 まずこの子誰? なんで俺の部屋に? なんでカップラーメン? しかも結構な限定品でここぞという時に食べようと思ってたやつ。


 そうだ、その疑問1つ1つを解決しようとした時だった。

 普通に蓋を開けて、ラーメン食べ出したんだよ。

 そして今に至る。



「ちゅる。はむっ」


(って、なんで俺ただ見てんだよ。いやまぁ、美少女がラーメンほふほふ食べる姿も有りっちゃ……って違う違う)

 そんなてんやわんやな思考をなんとか落ち着かせると、俺は今一度状況を整理する。


 まず、目の前のカップ……ラーメンはおいといて、それを食べている女の子だ。

 それはそれは目を輝かせて、カップラーメンを食べている。金髪に服装は……ロリータっぽい。

 現代の日本じゃあまり考えられない組み合わせの1つではある。ましてや、なぜ俺の部屋にいるのかも謎だ。

 言うまでもないが、自分には外人の友達も金髪の友達も、ロリータファッションに興味がある友達も居ないことは確かだ。


(金髪……美少女……ロリータ……ん? そういえばこの組み合わせ、ついさっき何処かで……まさか?)


「あの……」

「ゴクごっ……こほこほ」


 徐に話しかけると、丁度カップラーメンの汁を飲もうとしていたところだったんだろう。器で隠れた顔からむせる様な声。


「えっ!? あっ、ごめん! 大丈夫?」


 思わぬ反応に驚き、声を掛けてみると、


「こほこほ……ちょっ、ちょっと? いきなり話し掛けないでくれる?」


 器の影からその顔が現れる。

 少し怒ったような表情ではあるものの、その顔立ちはまるで人形の様に整っていた。

 綺麗と言うよりは可愛い感じで、その金髪が更に拍車を掛けている。


 そしてその全体像は……まさしくあの都市伝説に出て来る人物……? にそっくりだった。


(えっ? まさかこの女の子がメリーさん? いや、そうだとしても色々と疑問が……ととっ、とにかく今は俺に対して殺気はないみたいだから、聞けるもんなら色々と聞いてみようか)


「えっ、すいません。あの……ちょっといいですか?」

「待って。今スープ飲んじゃうところだから」


「あっ、はい……」

「ゴクッゴクッ。ふぅ……美味しかった。それで、何かしら?」


 勢いよく掲げた器を満足げにテーブルへと置いた瞬間、満足げにこちらを見つめる女の子。

 そのイメージとのギャップが容赦なく襲いかかる。

(うわぁ。なんか凄い満足した表情なんですけど。あの都市伝説の人ですよね? この世の者じゃないはずですよね? なんかイメージと違うような……)


「なに? 用件があるなら早く言って欲しいのだけれど?」

「あっ。すっ、すいません」


(とっ、とにかく事実確認が先か)


「あの……あなたはもしかしてメリーさん?」

「そうよ? というより、電話でも話していたと思うのだけれど?」


「えっ、電話? あっ、やっぱりあの電話の人はメリーさんだったんですか?」

「そうよ。だからここに居るんじゃない」


(……まじか。マジモンのメリーさんか……都市伝説の顔見たいな存在と、テーブル隔てて1対1? これって何気に凄いことなのでは?)


「なるほど! あの色々と聞いても良いですか?」

「なっ、なにかしら?」


「メリーさんって、言わば幽霊みたいな存在ですよね? ラーメン食べるんですか?」

「えっ? 聞くのそこ? そりゃ……」


「てか、箸持てるんですね? てっきりこの世の物には触れないかと!」

「まぁ、私くらいになるとね? 物を持つことくらい簡単よ」


「へぇ! ちなみにメリーさんって何歳なんです?」

「はぁ?」


「いやいや。都市伝説の年代的に結構昔じゃないですか? けど、その見た目はどちらかと言うと可愛い系と言うか」

「ちょっ、レディに向かって年齢とかっ! それに可愛いって……わたしは常日頃美しさを……」


「自分的には可愛い系だと思いますけど……あっ、じゃあ……」

「待って待って、ちょっとあなた!?」


「はい?」

「あのね? さっきから言ってるけど、わたしメリーよ?」


「はい」

「あの都市伝説で有名なメリーさんよ?」


 そう言いながら、両手を広げ得意げな表情を見せるメリーさん。やはりその整った顔とロリータファッションは完璧な気がする。

(あれ? 結構おっぱいも……)


「ちょっと!! 聞いてるの?」

「えっ? あぁ、聞いてます聞いてます」

「ねぇ……あなたねぇ? ちょっとは恐怖ってものがないの? わたしが本気になったら、あなたくらいシュッ・ポキ・バタンキューよ?」


 恐怖……正直言ってその感情については、現段階でさほど問題じゃない。

 まぁおかしいと言われればそこまでかもしれないけど、怖くないモノは怖くない。


「まぁそうですけど……目の前でカップラーメン食べてるのを見ちゃうと……」

「なっ! ちょっと待って? いつから見てたの!?」


「いや、最初から見てましたよ? もしかして気付いてませんでした? 結構目がキラキラしてましたもんね」

「はっ! ちっ、違うわ。そんなことないから」


「蓋開けた瞬間、うわぁとか……」

「いいいっ、言ってないから! なっ、なんなのよあんた!」

「あっ、すいません。俺……ちょっと霊感あって、小さい頃からそんな感じなんで慣れてるのかもしれないです」



「はぁぁ?」



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