ミユキちゃんの1日


 おはよう!私ミユキ!


 趣味は裁縫のごくごく普通の12歳!

 今日も元気いっぱいに頑張っていこう!


 私はベッドから起き上がると、自室の扉を開けてリビングへと向かう。


「み、ミユキ……?」


 リビングにはパパが座っていた。


「そうだよパパ!おはよう!」


 いつもと同じように、パパとおはようのハイタッチをしようと近付くと、パパは目を見開いて椅子から立ち上がる。


「か、母さん!ミユキが……ミユキが……!」

「どうしたのパパ……?」


 どういうわけか、逃げようとするパパの手を引っ張ると、ぼとりと取れてしまった。


「た、助け……!」


 肩からぼとぼとと血を流すパパの様子がおかしい。

 とりあえず、パパの首を取り外すとママを呼ぶことにした。


「ママ〜!パパの様子が変だよー!」

「ミユキ……?う、うわぁああああああああっ!?」


 ママもパパと同様に、私と目が合うと叫び声を上げ、腰をぬかしてしまった。


「もう、どうしてなの?どうしていつもみたいに挨拶してくれないの?」


 拗ねた私はママの頭を踏み潰すと、仏壇に置かれたランドセルを手に取って背負う。


「もう、パパもママも朝から変なんだから」


 窓を開けて家を飛び出し、ペタペタと道路を歩く。そういえば靴を履くのを忘れていた。

 でも、学校についたら上履きがあるからいいもんね。


「み、ミユキちゃん……?」

「あ!タクミくん!」


 声のした方を向くと、ボーイフレンドのタクミくんが立っていた。


「おはようタクミくん!」

「どうして、キミが……?」


 どういうわけか、タクミくんはランドセルではなく黒い学生服を着て鞄を持っていた。


「タクミくん、私たちは小学生だよ?なんでそんなもの持ってるの?もしかして、寝ぼけてるの?」

「何言ってんだよ……キミは去年、死んだじゃないか……」


 去年……?

 死んだ……私が?


「……あはははっ!もう、タクミくんったら寝ぼけすぎだよ!私はこの通り、生きてるもん!おかしいのはそっちだよ。そんな中学生みたいな格好してさ」

「違う!」


 大声を上げるタクミ君。


「この街では有名な話さ。キミはあの時、殺人鬼によって殺されたんだよ。あまりに惨たらしい姿で、キミの両親は言葉を失い……」

「タクミ君、怪談話はやめてよ。私、そういうの得意じゃないんだからさ」


 女子だから、そう言うのが好きって思われてるのかな?

 私はコックリさんですら怖くてたまらないのに……タクミ君は、私を怖がらせようとしているのかな?


「……ああそうか、分かったぞ。キミはキミの両親によって作られたんだ」

「なにそれ?そんなの誰だって当たり前じゃん。タクミ君だって、パパとママによって……」

「そうじゃない!娘を失ったキミの両親は気が変になり、家に閉じこもった。それから一年かけて、キミをロボットとして作り出したんだな!?」


 タクミ君の表情は、いかにも真面目と言った顔つき。

 そんなバカな話を真面目にする辺り、タクミ君はまだまだ子供だなあ。


「SFの話はいいよ。それより、早く学校に行こうよ」

「来るなっ!」


 タクミ君に歩み寄ろうとすると、顔に向かって鞄を投げられる。


「もう、危ないよ。ドッジボールじゃないんだから」

「う、うわぁああ……っ!!」


 鞄を振り払って両断すると、タクミ君は目を見開いてこちらに背を向けて走りだす。

 ドッジボールの次は、鬼ごっこかな?登校中なのにしょうがないなあタクミ君は。


「どう?早いでしょ?」

「た……た……助け……!」


 私が走ると、タクミ君の背中はすぐに追いつき取り押さえると、そのまま馬乗りになる。

 私こう見えても、運動会では一着を取ったことがあるんだもん。えっへん!


「捕まえたんだから、今度はタクミ君が鬼だよ」

「誰か……助け……ぎゃぁあああっ!!」


 鬼だと言うのに、逃げようとするタクミ君。仕方ないので足をちぎると絶叫を上げる。


「タクミ君ったら、話聞いてる?鬼ごっこのルール分かんない?」

「嫌だ……殺さないでく……」 


 タクミ君は、まるで私の話を聞いている様子ではなく、気が狂ったように目を白黒させ助けを乞うてくる。


「はぁ、もういいや」


 私は小さくため息をつくと、タクミ君の頭を捻り潰す。

 話にならない子とは、遊んであげませーん。


 もう、お陰で身体中が血だらけだよ。まあいっか、帰ってからシャワーを浴びればいいもんね。


 登校を再開して、街中の大通りに出ると、私を見るなり悲鳴をあげて逃げていく。みんなどうしたんだろう?


「そこのキミ、止まれ!」


 お巡りさんに呼び止められる。

 街の時計を見ると、既に8時を回っていた。タクミ君と遊んでいたせいで、あと10分しかない。


「お巡りさん、私急いでるの。学校に行かなきゃ遅刻しちゃうの」

「止まれというのが分からないのか!?」


 お巡りさんは、怯えた様子で腰の拳銃に手を伸ばす。

 分かっていないのは、お巡りさんの方だよ。今日は私が日直なんだから、遅刻したら先生にお説教だよ。


「止まれというのに!」


 お巡りさんは拳銃の引き金を引くと、私の足に弾が命中する。


「もう、邪魔っ!」


 お巡りさんの首を取り外すと、お巡りさんはあっという間に沈黙してしまう。


「こ、この化け物め……!」

「子供の姿だからと油断するな!」

「囲って撃ち殺せ!」


 いつの間にか、私の周りにはお巡りさん達が取り囲み、拳銃をこちらに向けていた。

 お巡りさんってことは、ケイドロかな?

 遊びたいのはやまやまなんだけど、学校に行かなきゃいけないから、相手してる暇はないんだけどなあ。


「市民の避難は終わった!撃て撃てぇっ!」


 お巡りさんは横に並び、私をから発砲してくる。

 私の体中に、弾丸が埋め込まれていく。


「ずるーい!ケイドロにはそんなルールないじゃん!」


 そういう卑怯なことをするなら、私だって!


 私はお巡りさんの一人の拳銃を、腕こと奪い取ると、みんなに向けて発砲する。

 残りのお巡りさん達はすぐに逃げていき、壁に隠れてこちらの様子を伺っている。


 もう、やって来たり逃げたりよく分かんないよ……さあて、学校に行かなきゃ。


「この先にある小学校には絶対行かせるな!なんとしても守り抜け!」


 振り向くと、いつの間にか大きな盾を持ったお巡りさん達が、私の通学路を塞いでいた。


「だから、邪魔だってば!」


 腕をぶんぶんと振り回し、お巡りさん達を蹴散らす。

 どうしてみんな寄ってたかって、私の邪魔をするの!?私はただ、学校に行きたいだけなのに!


「撃て撃てぇっ!!」


 四方から発砲され、服や体が蜂の巣になってしまう。


『バッテリー損傷!バッテリー損傷!』


 そんな文字が、ビービーという音を立てて視界に映り込む。


 バッテリー……?

 損傷……?


 どういうこと?


「今だ!動きが止まったぞ!」

「油断するな!撃ち続けろ!」


 皮膚の剥がれ落ちた手に目を向けると、血は流れておらず、鉄の部位が露わになっていた。


 ケガをしたら、血が流れるから保健室に行かなきゃいけないはずなのに、私の体からはそういったものが出ていない。


 私は……ロボット……なの?


『内部損傷!内部損傷!!』


 あぁ……なんだか私、眠くなってきちゃった。

 なんだか体調も、良くない気がする……。

 今日は学校も、お休みしようかな。


 でも、お家に帰るまでの気力……残ってないかも。でも、たまにはお外で寝るのもいいかな。


 まだまだ分からないことはたくさんあるね。

 また賢いタクミ君や、パパとママに色々教えてもらおうっと。




 おやすみなさい。


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