THE Eternal Leaf

「あの木から最後の葉っぱが落ちたら、私は死ぬの」


 病室の窓から覗く、一本の枯れ木に辛うじてくっついた葉っぱを見ながら、私は呟く。


「そんなこと言わないで!紗香ちゃんはきっと、元気になるよ!」


 恋人の太郎くんは目尻に涙を浮かべて必死に励ましてくれるが、私には分かる。

 あのぼろぼろの葉っぱが木の枝から離れた時、私の命もまた、儚く散るのだということが。


「ありがとう太郎くん。あなたと過ごせて、とても幸せだった……」


 だから最後に、精いっぱいの笑顔を浮かべて太郎くんに別れの言葉を告げた。


 1ヶ月後。


「い、意外に散らないね……」

「まさか1ヶ月もつなんて思わなかったわ」


 1年後。


「あの葉っぱ凄いね。冬を越したよ?そして、君も余命僅かだったのに、まだ生きてるなんて」

「ほんとね。もう私にも、あの葉っぱがいつ落ちるのか分からなくなってきたわ」



 10年後。


「落ちないね」

「周りの木々は何度も咲いたり散ったりしてるのに、あれだけあのままよ。時間が止まってるのかしら」


 50年後。


「やだ!死なないでよ!」

「いや、僕はもう充分に生きた。君はあの葉っぱが落ちるまで幸せに生きてくれ……ガク」

「まさか、太郎くんが先に死んじゃうなんて……あの葉っぱ、どうして落ちないのよ!?」


 100年後。


 知り合いはみんな死んでしまった。

 外の世界はすっかり姿を変えた。

 なのに、私とあの葉っぱだけは変わらない。



 1000年後。


 もはや、あの頃の時代の面影もない。

 今がもう何年なのか、私には分からない。

 それでも私は生きるわ。

 あの葉っぱが落ちまで、私は死ぬことはない。


 10000年後。


 私はとうとう古き肉体を捨てた。

 永遠の命の前に、徐々に朽ちていく肉体は必要なかった。

 そして私は、空間そのもの調和を果たし、永遠の時を生きる存在となった。


 50000年後。


 私は物質の法則の全てを理解した。


 とうに滅びきった世界に、私は物質を作り出し、また新たなる世界を構築した。

 新たな世界が滅びれば、再び構築した。そして幾度となく生物は生まれ変わり、文明を作り出し、そしてまた何もない世界へと戻る。

 それをただ、何度となく繰り返し続けた。



 100000年後。


 よもや私は神。

 いえ、神をも超えた。


 私は神であり世界であり宇宙。


 幾たびの無限を無限にこの手で創りだした。


 そう、今の私の命を止められる者など……


 ポロッ


「ぐえっ!」

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