第二章 赤く増える初夏

第二章 プロローグ 

流れる数文字の言葉達、そのどれもが―彼女―を賛美した。長く肩まで伸びる髪、白のレースに身を包むその姿を画面越しに多くの人が見ていた。


「貴方はとっても素敵な方ですわ。勇気を出してみて、きっといい方向に向かうと思いますよ」


 そう言うとコメントは加速する。その声に魅了される者、助言に縋る者、容姿を誉める者、その全てが打ち込んだ文字によって下から上に激流を作る。


「…さて、今夜はここまでにいたしましょう!皆様また会いに来てくださる?それでは、トリコロバーイ! 」


 配信は終了した、インターネット上に呟きを残しパソコンの電源を切る。


「っぷはぁ…!疲れたぁ!もうこんな時間か、早く寝ないと」

ヘッドホンを外し椅子に座ったまま伸びをする。2Dモデルソフトは今日も良好、カワイイの声も右肩上がり。


 今日は眠ろう、朝早いし。明日はあの人の事…なんでもない、柄じゃないし。


 おやすみ



 時計は午後2時を指した。消した筈のパソコンのファンは勢いよく回り、ライトは点滅を繰り返す。画面が切り替わると赤青白のリボンが画面上を包み込んで待機中と表示されていた。


 音もなくそれは中から画面外へと話しかけた。肩まで伸びる白い髪、青い瞳を見せにこやかに笑った。


 点滅する縦線、数文字のローマ字が現れては消える。何度かの失敗を繰り返してようやく1文を綴った。


 私はあn |◀

 私はあなたとは違います。|◁



 それからいくつかの処理が終わって電源が落ちた。厚い雲に月が覆われる、そんな夜だった。







*お読みいただきありがとうございました。

よろしければご意見ご感想、共有等お願いします。

*この作品は小説家になろうにも掲載しております。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る