後日、図書委員達の会話
先の事件より2日が過ぎた授業終わり、メッセージアプリに赤い通知が届いていた。
そのメッセージを開く前に図書室前の廊下ににいた俺は既読をつけ、少し待ってから部屋に入った。
「おお、鳴海。お疲れ、今日もそんなに人いねぇよ。気楽だな図書委員は」
榲桲倫弥はカウンターに置かれた返却本を整理しながら出迎えた。
「…結局手伝ってはくれなかったですね。先輩」
「いやちょいと待て、俺も俺なりに調べてたんだよ。お前がちゃっちゃか解決しちゃうから、必要なかっただけだ」
ちゃっちゃかと言われてしまったがあの宇佐美との話し合いは相当な時間を有していた。寝ていないというアピールなどしても無意味だし寝ずに頑張ったと言おうもんなら真面目故の睡眠の重要性について説かれるだろう。
「調査してたんですね」
この場での最適解を口から放てたこと、見事。
「意外か?流石に頼んだ手前、任せっきりってのもパワハラになるかもだしな」
「聞いたぞ鳴海春斗の推理。いやーまさかあんな娘があのカタブツガチギレ女の特攻薬になるとは…。傑作…いや嬉しい限りだ」
「まあ確かに驚きはしましたよ。あんな頑なに規則を保とうとしていた風紀委員長があっさりと」
「それだけ衝撃だったんだろな。後輩の女子からの告白は」
「で、調査って? 」
「ああ、そうだ。体育館の火災、あれお前忘れてるだろ」
「え?いや笹鳴の件は調べたはずですが? 」
「違和感なかったのか?体育でグラウンド出てたんだろ?聞こえた筈だ」
聞こえた…?声が?体育の時の記憶を呼び起こす。体育館からの叫び声。それとは大きさの違う騒ぎ声。
「2人いた…?あの時体育館とは別の所で発火があったって事ですか? 」
「正解、騒ぎの中心は1年D組の古川
「…その古川ってこの事件にどういう関係が? 」
「俺らにとっては大したことじゃない。結果だけ言えば古川は野球部マネージャーの笹鳴と取っ組み合った張本人で、燃えたシャーペンは野球部員の松田夜長の物だったってだけだ」
この情報はその事件自体には意味を持たない。彼女または彼のその後に絶対的なまでの位置づけをするかもしれないし、しないかもしれない。そして、彼女らはそれを望まないのかもしれないのだ。
それに恋愛という物は土台なんて無いが如し、いつ崩れるかなんてわからないのだから先輩の調査は必要のない代物だったかもしれなかった。
思案に暮れていると指先で合図する先輩、まだあると視線もこちらを向いていた。整理された返却図書と暇を持て余した指先は傾く夕陽に少し照らされてきていた。
「鳴海、よく意識飛ぶよな。考え込むのもいいが話は聞いといた方が世渡りに上手くなる。社会人の基本だ」
と高校3年が言った。
「さてと、鳴海の恋焦がれの考察の補足をさせてもらおうかな。あの笹鳴と古川の事件以降、3件の発火の前兆と
「発火の…前兆」
そんな物は無かった筈だ。あの2人の証言に前兆なんて無かった。だが観測されていないものを無いと断定するには俺は子供過ぎるし信じ切るには大人過ぎる。
嫌な言葉が
「前兆はどれも同じ、『DMに送られてきたメッセージの文字化け』だった。性別は違うが全員、恋人からのメッセージだ 」
「なぁ鳴海、良かったよ。お前が早く苗札千代の問題を解決してくれたおかげだ。最悪を免れた 」
先輩はやけに含みを持たせて言った。いや、勿体ぶっている。間接的な表現は嫌いじゃないがこういう時には手の甲が震えるくらいの焦ったさを覚える。
「実際お前の説は殆ど正しいと思う。恋焦がれは思い慕う相手に関係した物が燃える怪奇現象。それは合ってる」
「結局、何が言いたいんですか先輩。最悪のケースは避けた。それがどうしたんです? 」
「物と定義される『物』ってなんだ? 」
定義、俺が理系選択なのであれば喜んで考えてるであろう言葉。今回に限って言えば共通点って事なんだろうな。
男子生徒のプリクラ、笹鳴のタオルもあの過去の被害者の
「相手から渡された存在…ですか?」
「まぁ殆ど正解か。存在っていう言い回しはありだ。ものすごく近くてこれ以上ないくらいには言葉として秀逸だ」
これは図書委員長としての振る舞いなのだと思い込もうとする頃には先輩は背もたれに寄りかかり、こちらを向いていた。落ちる夕陽で目の色は判別できずいつものうっすらとした笑顔は少し不気味に見えた。
「0と1で作られたメッセージは『物』だと思うか? 」
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