第9節 ころころ、ぷにぷに
──人間以外に転生した主人公が、そのうち人間態を得る。
それは、やはりというかWEB小説におけるお約束の一つだ。
昨今は生物・無機物問わず人以外に転生する例が増えてきたわけど。
なんならいまの僕がまさに【魔導書】という無機物に転生してしまっていたりするわけども、それでも、いや、だからこそ人間態を得るのはある種の夢だ。
ほら、やっぱり僕って人間じゃん?
ホモ・サピエンスじゃん? 訳して賢い人じゃん? 霊長類じゃん?
や~ぱり、人間に戻りたいってのは、こう本能的なものだからさ。
そうつまり、本能的に僕は毛無しザルに戻りたいとですよ、ウキー!
《指摘:それでは人から退化してサルとなるのではありませんか?」
《うっさいな! 気分だよ、気分、ウキー‼》
おっと、いけないいけない。
【魔王】の欠片とやらの影響で、気分が愉快なことになってしまうが、ここは冷静にいかないと、そう冷静。
冷静って言葉はいいよね、それを言うだけで冷静な……ってこれ二度ネタじゃねえか⁉
やばいやばい、ちょっと僕はハイになっている英語で書いたらHigh、HAI! じゃない、それじゃあ挨拶だ。
とにかくどうやら僕は人間になれるらしい。
ならば、是非とも人間にならなくては! というわけで~、
《いまぁ~も、土下座しているアーシャさ~ん? いっちょ僕が人間になるための礎となれ!》
「………ッ! そ、それは私を食らって自分の糧とするという意味かしら⁉」
あ、ちょっと言葉を間違えた。
《いや、そうじゃなくて、かくかくしかじかという事情がありましてねえ》
「……あの、いくら【魔王】である私でもかくかくしかじかだけですべての事情を察するなんてことできるわけないでしょう」
呆れた眼差しでこちらを見やってくるアーシャに僕は、あれぇ、と首をかしげるようにその本の体を振ってみる。
おかしいWEB小説ならこれで伝わるんだけどな~。
《回答:それは、この世界がWEB小説とやらの世界ではないからではありませんか》
《知ってるよ‼》
ちょっとした悪ふざけのお茶目だってわかんねえのか、このクソカンコン‼
とまあ、そんなやり取りをしつつ、僕はアーシャへと事情を説明。
アーシャはもちろん二つ返事で了承した。
まあ【魔導書】を人質にとっているんだから、当たり前だ。
このままこのクソ吸血鬼をぼろ雑巾になるまでこき使ってやる、ぐわっはっはっは!
《指摘:だから、それは人として最低だと……》
《それぐらいわかってますぅ~! それよりもちゃっちゃと僕が人間態を得られるようにいろいろとやっちゃなさい!》
《回答:曖昧過ぎる指示ですが、それをわかってしまう当機/管理人工魂魄の有能さにため息しか出ませんが、まあ、いいでしょう……それでは【魔王】アナスタシア・ヴァレンシュタインとの霊的経路接続儀式を開始いたします》
言った瞬間、僕とアーシャの体が光に包まれた。
そして。
そして。
そして。
《お……?》
光が薄れる。
そして二度目の閃光が襲い掛かってきた。
「うぎゃああああ、目が、目がァ⁉」
顔面を両手で押さえつけて、僕は床をのたうち回る。
眼球を潰さんばかりにまばゆい光の直撃だった。
そうして悶絶している僕へ、カンコンが何食わぬ声で、一言。
《謝罪:失礼、眼球の光度調整に失敗しました。いまアジャストしますので少しお待ちを》
言っている間に、僕の両目はじょじょに光へと慣れていき、三秒ほどの間をおいて、周囲の景色が問題なく見れる状態に。
「お? おお?」
そんな声を喉から出しながら僕は周囲を見やる。
場所は相も変わらず図書館の中。
目の前の
「案外、可愛い恰好をしているじゃない?」
「……? えっと、それはどういう……」
いいながら、僕は自分の姿を見下ろしてみた。
うん、幸いにして、というべきか、僕はすっぽんぽんじゃない。
よくWEB小説で最初に人型を得たら一糸まとわぬ姿でしたってのがあるけど、僕は大丈夫、少なくともなにか衣服のようなものは纏っている。
トーガというのだろうか、あの布をぐるぐる巻きにしたような古代ローマとかで着られている装束に似たものだ。
意外と本格的で、下にはちゃんと
なんでそんなに古代ローマに詳しいのかって?
僕も一時期はボライターを目指して小説を書くための資料集めをしていたからだよ。
才能が全然なくて三日で筆を折ったけどね⁉
と、いけないいけない、過去の黒歴史は横に置いておいて、とりあえず僕の姿形に問題がないことを確認。
そうして改めて僕は僕自身を見て、しかし違和感を覚えて首をかしげる。
「ん? んん? なんか、手足が短い……?」
短かった。
こう全体的に手足と言うか、胴体というか、いろいろとしたものが。
そんな風に首をかしげていると、パチンと指を鳴らしたアーシャ。
すると、どこからともなく姿見のようなものが浮いて現れて、僕の前に置かれた。
なんだ? と僕が訝し気に顔を上げて、その姿身を見た瞬間。
「な……‼」
愕然と目を見開いた。
目の前の光景が信じられない。
まず目に入ったのはふわふわの毛並みをした髪。
肩口で切りそろえられたそれは、白色に染まっており、瞳は赤色。
肌も色が抜け落ちたように真っ白で、いわゆる
アルビノってよく、カッコいいからと創作界隈で出てくるけど、実際には肌の色素が薄いせいで日焼けとかしやすくて大変だっていうし。
いや、そいじゃなくて、いやそれも問題だけど、いまはそれが問題じゃなくて。
ああ、思考がこんがらがっている。
とりあえず、こういう時は目で見たことそのままを表現すれば理解できるはずだ。
まず手足……すごく短い。
なにより手だ。なんというか、ころころしていた……こう、お餅みたいに。
頬はぷっくりしていて、見ているだけでもちもちだとわかるぐらい柔らかそうで、顔立ちは全体的に愛くるしいほどの可愛らしさがある。
体つきは頭から胴体にかけてぽってりした幼児体形で。
そのつまり、なんだ。姿見の中に写る僕は、
「五歳児じゃねえか⁉」
そう、五歳児な僕が、鏡の中に写っていた。
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