第7節 給料払いが悪いと職務放棄されるのはどこの国でも同じ事です

 みなさん、こんにちは、あるいは、こんばんは。


 ここまで「魔導書転生~転生したら古代超人類の魔導書でした~」をご愛読くださり、誠にありがとうございます。


 たった6話と短い間だけでしたが、皆様に読まれていただいたおかげで、この作品を続けていくことができました。


 それもこれもすべて読者の皆様のおかげ──


《疑問:読者の皆様とは具体的にどこの誰のことを指すのでしょうか?》


《心の中にいる全僕の読者様だよ⁉ ……って、あれ?》


 生きてる、だと……⁉


 まてまてまて、落ち着け、僕。


 そう、ここは冷静になるべきだ。


 冷静という言葉は素晴らしい、とりあえずそれを言っておけば冷静な気分になれるから。


 うん、いいね、冷静。


 そういまの僕は冷静だ。


《なんでボクちゃん、いきてるんでちゅかあ⁉》


《指摘:それのどこが冷静な人間の発言なのでしょうか?》


 うるせえ! だから人の心読むんじゃねえよ⁉


 と、まあそんな茶番を演じながら僕は恐る恐る目(?)を開く。


 いや、目みたいな器官ってないはずなんだよね。


 しいて言うなら〝視る〟ための機関がある感じ。


 器官ならぬ機関、まさにいまの僕を言い表した最適な言葉(キリッ)。


《催促:つべこべ言ってないで早く目を開けて状況を見やがれよ、ゴラ》


 君って、たまにそういう口が悪くなるときあるよね?


 そんな風なことを思いつつ、僕が見やった先。


 そこには、しかし真っ赤な炎を身にまとった化物みたいなやつがいた。


《いぃぃやぁぁあ!⁉ 【火炎邪精霊イフリート】さんがいるぅッッ⁉》


 目の前!


 ほんっと目の前に【火炎邪精霊イフリート】さんがいるんですが、もしもし⁉


《あとちょっとで触れられられる距離じゃねえか⁉ っていうか僕がほいって言ったら触れられるよ、ほいっ!》


《注意:そう言って本当に近づいたら灼かれるのはあなたですが?》


《うおっ、あぶねえ⁉》


 お茶目不注意ッ⁉


 いやあ、あるよね。


 危ないとわかっていても、ついついおふざけで危険なほうへいっちゃうときがッ‼


《指摘:もしそれが本当なら、あなたの生存本能はどうなっているのでしょうか?》


 だから、僕の心の中を読むんじゃありません‼


 それはさておき。


 僕は目の前にいる【火炎邪精霊イフリート】を改めて見やった。


 腕を突き出し、いまにもこちらをそのぶっといお腕で握りつぶしてきそうな感じのそいつは、しかしそこからピクリとも動かない。


《……えーとう……?》


 なにが、どうなってんだこりゃあ?


 そう僕が疑問するのとアーシャの野郎が叫び声をあげるのは同時だった。


「──【火炎邪精霊イフリート】⁉ なにをしているの【火炎邪精霊イフリート】! 動きを止めないで、その魔導書を捕まえなさい‼」


 アーシャの野郎が、そう【火炎邪精霊イフリート】へと命令を下すが、しかし【火炎邪精霊イフリート】さんはピクリとも動かず僕の前で止まったままで。


《おーい、アーシャ。お前これ、給料払いが悪すぎて【火炎邪精霊イフリート】にストライキを起こされたんじゃねえ?》


 ほら、昔の国鉄みたいに。


 昔ってすごいよね、なにかを要求するために職務放棄とか簡単にするんだから。


 そのせいでわり食らったリーマンが会社で布団引っ張り出して雑魚寝していたっていうんだから、今の時代じゃあ考えられないよ。


 そして今の時代に目の前でストライキが起こした奴がいるわけだけど、うん? いまの時代ってなんだ、ここ異世界なんだから、いまの時代ってのは違うのか?


 だとすると、意外とこの世界ではストライキが当たり前な可能性が微レ存?


《……【火炎邪精霊イフリート】。お前も苦労しているんだな……》


 目の前の炎を纏った精霊さんに、僕は同情を向ける。いや、聞こえてないだろうけど。


 たいして、そんな風にストライキを起こされた【火炎邪精霊イフリート】を見て顔を真っ赤にしていたアーシャはまたもや手を天高く上げて。


「~~~ッ‼ いいわ、どういう手品を使ったか知らないけど【火炎邪精霊イフリート】が言うことを聞かないというのならば、他の方法を使うまでよ‼」


 言った瞬間、周囲の書棚から、一気に三冊もの【魔導書】がアーシャへと向かって飛んでいき──そのまま彼女をぶん殴って過ぎ去っていった。


「あぎゃっ⁉」


《おいおい、吸血鬼の【魔王】さんよ。仮にも淑女だったら、そんな情けない声を出すのはどうかと思うぞ、僕は?》


 なんだろう、コントロールにでもミスったか?


 あれだ、ほら、あれ、ボールを投げてみたら変な方向に行ってしまったという、あれ。


 一回僕も小学校時代に友達とボールの投げ合いをしていたら誤って高いフェンスを越えてプールの向こう側に消えていったことあるんだよなあ。


 あの時は先生へ素直に報告したから事なきを得たけど、そうじゃなかったらどうなっていたことやら……まあ、とりあえず目の前でノーコンかました吸血鬼よりはましだが(笑)


「……ッ‼ 【魔導書】ども! なに私に逆らうの! あなた達の主は私よ⁉」


 いってもう一度手を振り上げるが、しかし【魔導書】達は言うことを聞かない。


 どうやら【火炎邪精霊イフリート】に続いて【魔導書】にもストライキを起こされたらしいアーシャに僕は同情の眼差しを彼女に向けた。


《ぷぷぷっ。そ~やって扱い悪くしているからストライキを起こされんじゃねえの?》


 違った、同情じゃなくて嘲弄だ、これ。うん微妙に韻を踏んでる感じがいいね。


「なんで⁉ どうしてなの! 来なさい、来なさいったら、こらぁ‼」


 その小さな腕をブンブン振り回して喚き散らす幼女の【魔王】様だが、やはり【魔導書】は言うことを聞かず、さすがの僕も様子がおかしい、ということに気づいた。


《質問:カンコン。あれはどういう状況なんだ?》


《回答:私の真似をして問いを発しないでください。あとカンコンと言う呼び名も訂正を断固として要求いたします……さて、現在の状況ですが、答えを先に言いますと、当機/管理人工魂魄が当機/【魔導書】の力を使い、周囲の【魔導書】の支配権を奪いました》


 ほわっつ?


《えっ。奪ったって、ここにある何百、何千とありそうな【魔導書】のすべてをか⁉》


《肯定:その通りとなります》


 まじかー。


《おーい、アーシャ。ここにある【魔導書】全部僕のにしたから、そういうことでー》


「なん、ですって……⁉」


 僕の言葉に愕然と目を見開くアーシャ。


 憐れということなかれ、だいたい人の話を聞かないで襲ってきたこいつが悪い。


 だが、そんなことはアーシャには関係ないのか、


「……ぅ、あ。うあ、うああ……!」


 そんな唸り声のようなものを上げて、バッとアーシャが顔を上げる!


「うわあああああんんん! ここにある【魔導書】は私の物なの~‼」


 マジ泣き⁉

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