第3節 チートなしで【迷宮】生き残れとか無理ゲーじゃないですかねえ⁉

 チートがない。


 そんな状態から始める異世界転生とか聞いたことがない。


《つーか。いまさらだが、ここはどこなんだ?》


《回答:ここはこの世界の用語において【迷宮ダンジョン】と呼ばれる場所となります》


《……【迷宮ダンジョン】……?》


 それは、あれか。


 これまたWEB小説のお約束である。


 だいたい異世界に存在する、謎の怪物徘徊地帯。


 作品の種類によって扱いは様々だが、おおよそにおいて魔物とか魔獣とか呼ばれる怪物が内部ではうろついていて、中間層だったり最奥だったりに強力なボスとかいる感じの場所だ。


 うん、実にお約束的で心が躍っちゃうね。


 でも、僕は冷静だ。


 ここは冷静にならなくちゃいけない。


 そう、例えここに凶悪なバケモノが跋扈していようと、僕にチートと言える能力が無かろうと【迷宮】なる名称の場所にいるのは間違いないわけだ。


 それは認めよう。


 認めた上で、僕はこう問いかけた。


《ちなみに、ここはどういう【迷宮】で具体的にはどのあたり階層? エリア? まあ、そんな感じの場所なんだ?》


《回答:この場所の名称としましては【無限迷宮】と呼ばれる場所となります。無限の名を冠する通り、いまだにその最下層までは見つかっておらず、現在人類が到達しているフロア数はのべ75層だとか》


《ほーう。うん、なかなかすごい【迷宮】だとはわかった。で? いま僕がいる階層は?》


《回答:31層となります》


 ああ、なるほどつまり今現在人類が到達している階層のおよそ半分ってことか。


 ならいうほどたいしたこともないのだろう。


《なんだ、じゃあチートなしでも僕が脱出できるような場所なん──》


 だな、という言葉をしかし管理人工魂魄は遮って。


《補足:ちなみに人類側の定義では、このあたりの階層は深層と呼ばれる区画となりまして、人類でも一握りの実力者のみが到達できるとされています》


《ダメじゃん⁉ 超絶ダメじゃん‼》


 頭を抱えるとはこのことを言うのだろうか。


 いや、別に抱える頭も、何なら抱えるための手足もないけども!


 だけど、そんな気分で【魔導書】となった自分の体を振り回す僕に管理人工魂魄の野郎は無慈悲にこう告げてくる。


《解説:なおこの【無限迷宮】は古の時代に古代神人──またの名を〈神祖ディーヴァ〉と呼ばれる方々が滅び去ることとなった【大災厄カタストロフィ】の原因たる【魔神】の遺骸が変じたものとなります。そのため内部を徘徊する魔物はどれも強力で、人類にとっては最難関の【迷宮】といえるかと》


〈神祖〉とか、【魔神】とか、【大災厄】とかなにやら重要そうな設定をさらりと口にしているが、そんなことをいま言われても困る。


《つまり、なんだ……?》


《返答:そのためにこの【迷宮】へは人類でも最高峰の実力者しか入れません。しかしそんな人類でも一握りといっていい実力者達ですら、万全の準備を整えた上で大所帯となって挑むことでようやく到達できるかどうか、といのが深層と呼ばれる区画となります》


《マジで詰んでんじゃねえか⁉ そんな場所でどうやってチートもなしに生き残れってんだ、ええ⁉ 無理ゲーにもほどがあるだろうが‼》


《回答:現在あなたの魂魄を取り込んだことで、急速に当機/【魔導書】は機能回復を行っております。うまく隠れて当機/【魔導書】が大きな破損を追わないようにしてくださいましたら、時間をかけることでこの【無限迷宮】からの脱出も可能になるかと》


《……ちなみにどれぐらいの期間で、だ?》


《おおよその概算となりますが、千年と百五十一年ほどの期間となります》


《ばっかじゃねえの⁉》


 千年ってなんだよ、千年って!


 今日生まれたばかりの赤ちゃんでも余裕で干からびて化石になれるわ!


《お前さあ、このカンコン! 僕が元は人だって忘れてんじゃねえの⁉ 人は百年も生きたら世界中から褒められるぐらいの寿命なんだぞ⁉ 千年も生きてられるわけがねえだろうが‼》


《質問:カンコンとは当機/管理人工魂魄を表す呼び名でしょうか? だとすれば大変に不服であると申させていただきます。ただちに呼び方の訂正を行ってください》


《知るか、バァーカッ! 僕に死ね! っていいたいなら、さっさとそう言え‼》


《否定:当機/管理人工魂魄は決してあなたに死ねなどと望んでいません》


《……ほう? じゃあ、なにを望んでいるんだ?》


《回答:ただただ生存を。当機/管理人工魂魄が望むのはそれだけとなります》


 まず、それが無理だって言ってんだろうが⁉


《やっぱ、バカだわ! お前マジでバカだわ! 生き残るのが無理な状態で生き残れってそれ自体が無理だって言ってんのがわかんねえのか⁉》


 無茶無理無謀はWEB小説のお約束とはいえ。


 さすがに、それでも限度と言うものというのがあるだろう!


《………。はあ~。いや、もういい。とりあえず、ここでギャーギャー騒いでも仕方がないことぐらいは僕にもわかる》


 嘆息を漏らしながら、そう告げて、そして僕は建設的な発言をすることにした。


 建設的、なんか字面とか発音がカッコいいよね。


 それとなくクレバーな感じがする。


 こう建設的っていうだけで、大人になった気分になれるのだ。


 と、僕はツラツラ考えながらこんな感じで建設的な! 問いかけをカンコンにした。


《それで? 生き残れってことにしても、いったいどうすればいいんだよ? いくらなんでも僕はこの世界について知らないんだから、なにをすればいいのかもわからないぞ?》


《回答:とりあえず、この【迷宮】内に徘徊している魔物から逃げ回ってみては?》


 あ、やっぱりいるのね、魔物。


《……身もふたもないなあ、おい》


《返答:実際にそれ以外にやれることもありませんので》


 本当に身もふたもない状況だな、おい。


 などとわめいていても仕方ないので僕はこの場から移動することにした。


 というか、今更だが僕はどういう原理によるものか空中に浮かんでいるようだ。


 あまりにも自然というか、普通に歩くような感覚で浮いていたのであまり気にしなかったが、これはこれでちょっと心が躍る。


 状況が状況でなかったら、どれぐらい速く飛べるのか、とか、どのぐらいの高度まで浮かべるのか、とかいろいろと調べてみたかったが、それはさておき。


 ぐるり、と視線(?)を周囲へと向けて見た。


 どうやら、ここは洞窟のような形になっている場所の一角らしい。


 あれだよね、典型的な【迷宮】のイメージそのまんま。


 ごつごつとした岩が四方を囲っていて、なのに謎光源で照らされているから灯りには困らないという場所の隅っこにある路地みたいなところが僕のいる場所だ。


 とりあえず、ここから移動するか、と思いながら僕はフヨフヨと浮いて、道なりに進み。


 そうしてようやく出た丁字路。


 よく世間ではT字路って呼ばれるけど、字面と発音が似ているだけで正しくは丁字路だ、などと思ってみたりしながら、そんな丁字路に立ち、僕は右を、続いて左を見て。


《ど~ち~ら~に~し~よ~う~か~な~。か~み~さ~ま~の~いう~と~り!》


 言葉の終わりと同時に振り向いたのが左だったのでそっちを見た。


 すると、そこから僕と同じようにフヨフヨと浮く本みたいなのが現れた。


 OH? ナカ~マ?

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