第6話 敵の敵は味方

ヴェルサイユ条約で本国の一部や賠償金を奪われ、ドイツ国民にとって最も憎むべき相手であるフランスに圧勝した事実は、ドイツ国内に歓喜の渦をもたらしていた。


「今回のフランス侵攻作戦、君に任せて正解だったな、マンシュタイン。」


「いえ、想定以上にフランス軍の戦力が分散していた部分が大きいでしょう。」


「そう謙遜するな、君には騎士鉄十字勲章を贈らせてもらうよ。」


「ありがたき幸せ。それよりも、イギリスへの侵攻作戦についてですが…。」


「ああ、イギリス本土上陸に向けて水陸両用戦車の配備を進めている。近く航空作戦も計画されている所だ。」


「そうですか…。では東方についてはどう動かれるのです?」


「それに関してだが…。9月の末にイタリア、日本、そしてソ連との首脳会談を予定している。そこで防共協定にソ連を加えた同盟締結について話し合うことになるだろう。」


「ソ連とも?バルカンやフィンランド※がどう言う状況か忘れた訳ではないでしょう?」


「ああ。だが、今はソ連とバルカンや北欧を巡って睨み合っている場合ではない。北部仏印への進駐により更に緊張感が高まり、最早太平洋の覇権と東南アジア資源地帯を巡っての日米の衝突は避け難い所まで来ている。東方生存圏はいずれ必ず確保せねばならない要衝だが、ソ連とアメリカを同時に相手取るのは得策とは言えんだろう。」


「(リッベントロップの差し金か…?)……了解しました。」


当時のドイツ外相ヨアヒム・フォン・リッベントロップは反英親ソ思想の持ち主であり、同じく南進論者の日本外相、松岡洋右と共に"日独伊ソ四国同盟"の成立に向けて奔走していた。


スターリンはこれを受け、フィンランドからのドイツ軍の撤兵、及び北樺太における日本の石油利権の放棄を要求。

英仏やルーマニア、ハンガリーとの戦略的提携が難航するとすぐにドイツとの北東欧分割交渉に切り替えたり、"長いナイフの夜"の際にヒトラーの手腕を賞賛する等スターリンはナチスへの嫌悪や偏見を余り持たない数少ない欧米元首の1人であった。

ヒトラーはこの要求に当初は難色を示したが、日本の仏印進駐によるアメリカとの関係悪化を受けてソ連との同盟案に舵を切ったのである。


反共の英米はここまで来てもソ連との関係回復には動けなかった。

特に強烈な反共主義者であるチャーチルは。


この四国同盟が連合国にとっての致命傷になるとも知らずに。







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※1940年3月に終結した冬戦争の後、スウェーデンから煙たがられたフィンランドはドイツへの依存を強め、対ソ開戦に備えてドイツ軍がフィンランド国内で見られるようになっていた。また、ソ連がルーマニア政府に割譲させたベッサラビアを巡っても独ソ間での対立が起こっていた。

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