本章:すれ違い、勘違い、大間違い……バカじゃない?
【Interlude】One Of Snowy Memories~幼なじみカノジョはイチャラブの朝にはしゃぐか~
「きーくんっ、ほら起きて! 朝だよ!」
季刹が目を覚ますと、雪鳥の顔が目の前にあった。
ベッド側に立った雪鳥が、ゆさゆさと季刹の体を揺さぶっている。
目を覚ました瞬間に彼女の顔があるというこの状況も、毎朝のように繰り返しているといい加減驚きも無い。
眠たげに半目を開けた季刹は、雪鳥から顔を背けるように寝返りを打つと、もう一度目を閉じた。
昨日まで春休みだった季刹の体には自堕落な生活が染みついており、脳がさらなる睡眠を求めている。
今日から小学校の最高学年としての生活が始まる訳だが、もっと眠りたい季刹にそんなことは関係なかった。
「もう、きーくんってば、しょーがないなぁ」
台詞の内容に反して嬉しそうな口調の雪鳥は、するすると布団の中に潜り込む。
雪鳥は季刹の腕の中に無理やり自分の体を捻じ込むと、その胸元に鼻先を埋めてすうはあすうはあと深呼吸を繰り返してから、彼の首に腕を回して、耳元で囁く。
「えへへぇ……、きーくん♡ 好きだよ。すき、だいすき♡」
熱っぽい吐息が季刹の耳朶をくすぐる。ぞわりと背筋に震えが走った季刹の意識は一気に覚醒し、開いた視界一杯に雪鳥の笑顔が飛び込んできた。
「おまっ!? ゆと――、んっ」
叫びかけた季刹の口を塞いだのは、雪鳥の唇だった。
三秒……四秒と、全く離れる気配のない雪鳥の顔を、真っ赤になった季刹が引き剥がす。
「はぁ……、はぁ……っ、いきなりはやめろっていつも言ってるだろ、お前……ッ」
「んふふ♡ ごめんねきーくん。でもするって言ってもきーくん恥ずかしがってしてくれないから」
「いや、それは、だってさ……」
「なぁに?」
雪鳥のつぶらな瞳が、文字通り目と鼻の先で季刹を見つめていた。
「いや……」
頬を染めた季刹が、雪鳥から顔を逸らした。
それを見た雪鳥の口元に、愉悦の笑みが弾ける。
「ふふっ、もうきーくんってばもう照れちゃって、かわいいなぁ」
「だからお前! 可愛いもやめろっていつも言ってるだろ!?」
「なんで? 可愛いって言われて嬉しくないの?」
「男と女は違うんだよ!」
「じゃあきーくんはわたしになんて言って欲しいの?」
「え? それは、か、カッコいいとか――」
言いかけた季刹の視線が、また雪鳥の瞳と間近で重なる。
「んー? きーくんは、わたしにカッコいいって言って欲しいんだ?」
どこか慈愛にも満ちた、からかいの微笑みを湛える雪鳥。
「っ! あぁもういいよ! 俺起きるから!」
逃げ出すようにベッドから転げ落ちた季刹を見て、雪鳥はもう一度、口の中だけで「かわいいなぁ」と呟く。
そして雪鳥は、立ち上がった季刹に声をかけた。
「ねぇ、きーくん」
「な、なんだよ……」
既に体力を半分ほど失ったような顔で、季刹が雪鳥に振り返った。
「きーくん、カッコいいよ。可愛いのもウソじゃないけど、でもわたし、きーくんのことカッコよくて大好きだなぁっていつも思ってるの」
「……っ。そ、そう、かよ」
少し冷めかけていた季刹の頬に、熱が再燃する。
「ねぇきーくん」
「今度はなんだよ!」
「わたしたちって、恋人同士、だよね?」
「っ、そ、それが、どうしたんだよ……」
「きーくんはわたしのこと、好き?」
「…………す、好きじゃなかったら付き合ってねぇって……」
「えへへーっ♡」
照れたように顔を伏せる季刹に、ベッドから飛び降りた雪鳥がぎゅぅと抱き着く。
「ねぇねぇきーくん、じゃあきーくんはわたしのことどれくらい好き?」
「け、けっこう好き、だけど」
「……それだけ?」
季刹の首に手を掛けた雪鳥は、上から見下ろす形で、じぃーっと視線を向け続ける。
「きーくん、わたしはね? わたしはきーくんのこと世界一好きだし、世界で一番カッコいいと思ってるの」
「「…………」」
無言のまま見つめ合う季刹と雪鳥。
季刹の顔が朱に染まり、雪鳥の口元には幸せそうな笑みがあった。
「ねぇ、きーくんは?」
「…………っ、あぁもう! 言えばいいんだろ!? 俺も雪鳥のことは世界一好きだし、世界一可愛いと思ってるからッ!」
「んふ♡ んふふふ♡」
「な、なんだよ、そのキモい笑い方は……」
「ごめんねっ、ちょっと幸せすぎるなぁって」
太陽のような笑みを咲かせ、また季刹に口付ける雪鳥。今度のキスはそっと触れるだけの、一瞬のものだった。
「っぅ!? だ、だからお前は!」
「ねぇきーくん!」
「あぁ! もう何だよッ!?」
「――来週何があるか、分かるよね?」
「え――」
雪鳥の眩い笑顔に油断ならない何かが混ざったのを感じて、季刹の心臓が跳ねた。一体何が原因か分からないが、場の空気が張り詰めたのを季刹は感じ取っていた。
刹那の間に思考を回す季刹はしかし、この場における正解が何か分からなかった。
「も、もちろん、分かってるって……」
分からないが――、焦燥の結果の強がりとして、季刹はそう言った。
「そうだよねーっ、来週はわたしたちが付き合って半年の記念日があるんだもんね♡ いっぱいお祝いしなきゃっ」
「あ、あぁ……っ、そうだな」
引きつった笑みを浮かべて頷く季刹は、女の子と付き合っていくのは大変なんだな――と、小学生ながらに心底思うのであった。
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青井かいかです。
非常に多くのフォローと星とハートとコメントありがとうございます。
コメントも全部読んでます。とても嬉しいです。単調な文章ですが凄く喜んでいます。予想よりだいぶ多くの人に見られてるのでちょっとビビってもいます。
これからは1日1話くらいの感じで更新していく予定です。
割とほんとにめんどくさいヒロインたちですが、今後ともどうぞよろしくお願いします。
めんどくさい女の子ってめんどくさいけど可愛くないですか? 可愛いよね。うん。可愛い。
でもめんどくさい女の子が可愛くあるためにはそれを受け止めてくれる存在が必要なので、季刹には頑張って欲しい。
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