5 殺す理由


「殺人事件?」

「数人の少年が一人の中年男を取り囲み、殴る蹴るの暴行……その末に中年男は死亡したようだ」

「……ん? もしかしてお前はそれをずっと見ていたのか?」

「なんだ、止めればよかったのか?」


 俺の言葉に悪魔Aは意外そうな様子を見せた。


「お前の命令は偵察だけだった。暴力行為の停止が含まれていれば、もちろん実行したが」

「……いや、分かった」


 そうだ、こいつは『悪魔』だもんな。


 人間と同じ倫理観なんて持っているはずがなかった。


「お前も同じことをしているのではないのか?」


 悪魔Cがたずねる。


「俺が? 俺は『殺す理由』のあるやつを殺してるだけだ」


 まあ、正義の味方には程遠いか。


 ただ、俺に対して特に不利益なことをしていない相手をなぶり殺しにはしない。


 不利益なことをしてくる相手には容赦せず殺すし、社会のルールやマナーを守らないような不快な奴も気分次第で殺すが。


「くくっ」


 俺は小さく笑った。


 悪魔からすれば、そんな俺も中年男を殺したヤンキーたちも大差ないか。

 奴らから見れば俺たちは――同じ『殺人者』というカテゴリーだ。


「ま、いいか」


 別にどうでもいい。

 さっきも言った通り、正義の味方を気取るつもりはないし、なろうとも思わない。


 俺は俺が快適に暮らせるように、この能力を活用させてもらうだけだ。


「そいつらのところに行こう」




 ヤンキーたちはコンビニから数百メートル離れた公園にいた。


 どいつも目が血走っている。

 先ほどの殺人の興奮がまだ醒めていない様子だ。


「ど、どうするんだよ……」

「バレっこねぇって」

「いや、俺らはいつもあのコンビニをたまり場にしてるんだ。バレるって」

「証拠はないだろ」

「すぐ逃げたし、目撃者もいないはずだ」


 ――いるんだよな、それが。

 俺は彼らの前にゆっくりと進み出た。


「な、なんだ、てめぇ!」

「ここは俺らが使ってんだ! さっさと消えろ!」

「殺されてぇのか、ああん?」


 と、ヤンキーたちがすごんでくる。


「殺す? さっきのサラリーマンみたいにか?」


 俺はせせら笑った。


「っ……!?」


 途端に連中は息をのんだ。


「て、てめぇ……」

「見てたのか……?」


 あからさまに動揺している。


「くそ、こいつも殺して口封じだ!」


 ヤンキーの一人が言い出した。


「どうせ一人殺してるんだし、二人でも変わらねぇよな」

「よし、殺せ殺せ」


 とたんに殺意をむき出しにするヤンキーたち。


 本当に単純な連中だ。

 お手軽に『敵』を殺そうとするとは――まるで獣だな。


 ……いや、それは俺も同じか。


「俺の兵隊にしてもいいんだが――殺人を犯したお前らは警察にマークされる可能性が高い。お前らが逮捕された場合に、俺とのつながりを知られたら厄介だからな」


 俺はヤンキーたちを見回し、ニヤリと笑った。


「お手軽に他者を殺す者同士……ここは『殺し合い』といこうか」






***

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