17 結界空間3

「じゃあ、まず名前と住所、年齢、職業辺りからだ」


 俺は顎をしゃくった。


「……名前は柳川栞。住所はG市三丁目2-5。年齢は二十七。職業は市内の商社に勤めているわ」

「OLか」


 俺は栞に近づき、肩のあたりに軽く触れた。

 これで『強制』をかけることができる。


「――俺に危害を加える行動を一切禁止する。破った場合は死ぬ」


 設定しておいた。


「これで勝利確定だ」

「えっ……?」


 栞が俺を見つめる。

 さっきの俺のセリフで、だいたいのことは悟ったのだろう。


「私が逆らえば……あなたの能力で死に至る、と?」

「そういうことだ」


 ニヤリと笑う。


「俺に従え、栞」


 いざとなれば殺せばいいが、手駒として使えるなら、それが最善だろう。


 今後も能力者との邂逅は予想される。

 そのときに俺一人で戦うより、ともに戦う能力者がいた方が有利であることは間違いない。


「――従うしかないようね」


 栞はうなだれた。


 俺に敵対する感情は残っていそうだが、それよりもまずは自分の身の安全を優先したか。


 それで、いい。


「よし、次の質問をするぞ。お前に力を与えた存在は誰だ?」


 たずねる俺。


「天使と名乗っていたわ。名前は『ガイルーエル』」

「幻想体は出せるか?」

「ええ。今、ここで出せばいいの?」


 たずねる栞。


「――いや、今はいい」


 幻想体が俺を攻撃してこないとも限らないからな。


 栞が俺に攻撃すれば、その時点で『強制』の効果によって彼女は死亡する。

 だが幻想体が独自の意志で攻撃してきた場合、『強制』の対象にはならないだろう。


「この際だから一通り聞いておくぞ。他の能力者の心当たりは? 少なくとも竜堂のことは知ってるんだよな? 俺と戦ったことも含めて」

「ええ。あなたが竜堂くんを殺したこともね」


 栞が俺をにらみつける。

 やはり、俺への敵対心はまだ残っているようだ。


「反抗的な態度をとるなよ、栞」


 俺は彼女に近づいた。


 顎に手をかけ、グイッと上げると、そのまま栞の唇を奪う。


「んんっ……!?」


 栞は驚いたように目を開いた。

 悪魔Bに羽交い絞めにされているため、俺を振り払うことができないようだ。


 しばらくの間、俺は彼女の唇を堪能した。

 ゆっくり唇を離すと、互いの口の間を透明な唾液の糸が橋のようになってつながった。


「な、何を――」


 栞の顔がサッと紅潮した。


 恥じらいではなく、怒りの表情だ。


「この私によくも……許可もなく唇を奪うなんて……っ!」

「俺に従え、と言ったはずだ。いいな?」


 別に愛情表現のためにキスをしたわけじゃない。

 ただ、彼女に屈辱感を与えるための行動だった。


「お前のすべては俺が制御する。逆らえば、死ぬ。それだけだ」





***

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