4 近隣のヤンキーたちを制圧する2


「場所を変えないか? ここじゃ人目があって、色々面倒だ」


 俺はそいつに言った。


「お前らだって、わざわざ人目があるところで喧嘩してもメリットないだろ?」

「メリット? 知るか、そんなもん!」


 次の瞬間、頬に焼けるような痛みが走った。


 こいつ、問答無用で殴ってきやがった。


 くそっ、久々にこんなに痛い思いをしたな。

 誰もが理性的な判断をできるわけじゃない。


 こいつみたいに短絡的に、刹那的に、後のことも考えずに暴力を振るう奴だっているんだ。

 当たり前ではあるけど、ちょっとその辺の意識が薄れていたな。


「いてて……この痛みは反省材料として受け取っておくか」


 俺はそいつをにらんだ。


「殺すぞ、コラァ!」


 そいつがふたたび殴り掛かってくる。

 俺は素早く周囲を見回し、人目がないことを確認した。


「――【撲殺】」


 スキルを発動する。


 本能的に分かっていた。

 このスキルは近距離で発動する物理攻撃系スキルだと。


 どごおぉっ!


 重々しい打撃音が響く。


 俺は何もしていない。

『見えない拳』とでも表現すべき透明な何かが、奴を殴りつけたのだ。


「ご、は……ぁ……」


 そいつはすさまじい勢いで吹き飛んでいった。


 十メートルくらい吹き飛び、そのまま倒れる。

 首が異様な角度に折れ曲がっていた。


 当然、即死だろう。


「ひ、ひいい……」

「お、お前……」


 他のヤンキーたちが騒ぎ出す。


 ちっ、反射的にやってしまったが、こうなったら口を封じるしかない。


『兵隊』に確保できそうな奴は、他にいくらでもいる。


 どうせなら【撲殺】の試し撃ちといこう。


「【撲殺】」


 俺は一人一人に近づきながら、スキルを発動した。


 どごぉっ!

 どごっ!

 ごおおおんっ!


 すさまじい打撃音が次々に響いては、対象が殴り殺されていく。

 俺は一人一人、違う間合いでスキルを使った。

 ある者は五メートルほど空け、別の者は三メートルほど空けて―というふうに。


 結果、七、八メートルくらいの範囲が射程距離のようだった。

 十メートルとか十五メートルくらいまで離れると、スキル自体が発動しない。


 五十メートルほどの射程距離がある【爆殺】に比べると、かなり短い。

 やはり近距離スキルということだろう。


 やがて全員を殴り殺し終えると、俺は足早にその場を離れた。


 幸い、目撃者はいないようだ――。

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