2 いつもの学園生活

 翌朝、通学路にて――。


 ぶぅぅぅーっ!


 けたたましいクラクション音とともに車が走り去っていく。


「くそっ、なんだよ、あいつ」


 俺はムカついた。

 運転が乱暴というか、はっきり言って危険だ。


「殺しておくか」


 ああいう奴は、いつか誰かを轢くかもしれない。

 仮にそうなったとしても、刑務所にさえ行かず、執行猶予とかがついて終わりだろう。


 もちろん、殺人への忌避なんてない。


 そりゃあ、なんの罪もない人間が相手なら、良心が痛むかもしれないが――。

 ああいう奴が相手なら、むしろ喜んで殺せる。


「甘すぎるんだよな、この国は。そういう連中に対して」


 俺はフンと鼻を鳴らした。


 幸い、手近の赤信号で停車して、今の車はまだ射程50メートル内にいる。

【時限爆殺】で、真夜中に死ぬようにセットしておいた。


「ふう、いいことをした後は気持ちがいいな」


 晴れやかな気持ちになって、俺はふたたび歩き出した。




 俺は教室に入った。


「聞いたか? 五組の竜堂が死んだって……」

「な、なんか、いっぱい人を殺したとか……」

「まじか。竜堂ってあの真面目そうな奴だろ……?」

「ええ……あたし、竜堂くんって、ちょっといいなって思ってたのに……」

「カッコイイよね、彼……」

「でも殺人犯でしょ」

「っていうか、もう死んじゃったし……」


 などと、クラス内では竜堂の話で持ちきりだった。


 だが、俺を疑う者はいない。

 当たり前だ。


「おはよう、鈴木さん」

「おはよう、東雲くん」


 この間の痴漢の件から、鈴木さんと俺の距離は縮まっている気がする。


 地味だけど、そこがいいんだよな、鈴木さんって。

 成瀬なんて、しょせんは性欲解消のための道具だし、彼女にするならこういう子がいい。


「東雲くん、なんだか嬉しそう」

「そうか? まあ、最近は人生が充実してる気がして」

「充実?」

「毎日、生きてる実感が湧いてるって感じだ」


 俺は適当にはぐらかした。


 実際、充実した日々を送っているのは本当だ。

 もう、いじめられることはないし、俺に対して不快なことをしてくる奴がいれば、【強制】でいうことを聞かせるなり、場合によっては殺すこともアリだ。


 すべては俺の気分ひとつ。


 まるで、神にでもなったような気分だった。


 そう、俺自身が殺戮の神に――。

 なんて、これじゃ漫画やアニメに出てくる悪役だな、はは。


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