21 正義の味方4(竜堂視点)


「し、死んだだと? 嘘だ! セリューエル! セリューエルぅぅぅぅっ!」


 竜堂は必死で叫んだ。

 だが返事はない。


「もうすぐ視力が回復するから、自分の目で確かめろ。まあ、その前に……俺がお前を殺してしまうが」

「ひ、ひいぃ……」


 竜堂はか細い悲鳴を上げた。


 殺される――。

 初めて味わう絶望感だ。


 竜堂は、この能力を手に入れてから、『自分は絶対に殺されることはない』という感覚を持っていた。

 たとえ世界最強の格闘家や軍人などが現れても、自分の能力一つで確実に殺せる――。

 そんな自信を持っていた。


 だが、今……その自信は打ち砕かれた。


「そろそろ、覚悟はいいか?」

「ま、待て、待ってくれ!」


 竜堂は恐怖に震えた。


 かつ、かつ、という足音が複数近づいてくる。


 すぐ近くに東雲がいる!?

 あの能力で俺を殺そうとしているのか!?

 それともヤンキーを操って、殺すつもりか!?


 逃げようにも、目がよく見えない状態ではそれも叶わない。


 考えたとたん、パニックに陥った。


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 絶叫する。


 もはや、無関係の人間を殺したくない、なんて言っていられない。


「ああああああああああああああっ! 死ねっ! 死ねっ! 死ねっ! 死ねぇぇぇぇぇっっ!」


『穿孔』の能力を連続で発動し、周囲の人間を次々に殺していった。


 とりあえず視力が回復するまでは、誰が東雲なのか判別できないから、無差別殺人だ。


 自分の身を守るためには仕方がない。


「ごめん……ごめん……死んでくれ……っ!」


 竜堂は呪文のように謝罪の言葉を繰り返し、能力を使い続けた。


 やがて――。

 ようやく視力が回復すると、周囲は血の海と化していた。


 ヤンキーたちが何人も倒れている。

 いずれも【穿孔】によって腕や足がちぎれていたり、胸や腹が貫かれていたり、あるいは頭部が吹き飛んでいたり。


 むごたらしい死体が、全部で七つほど。

 おそらく、あの後もヤンキーたちが何人か加勢したのだろう。


 そして、そのすべてを竜堂が殺した。


 だが、どうしようもなかった。

 不可抗力だ。


「仕方がない……っ!」


 これは正当防衛だ。


「仕方が……なかったんだ。お、俺は悪くない……悪くないからな……っ」


 動揺を抑えるために、何度も何度もその事実を心の中で繰り返す。


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