17 VS竜堂3


「【穿て】!」


 竜堂が右手を突き出した。


 ごがあっ!


 幻想体エルギアスが完全に砕け散る。


 これで『盾』はなくなった。


 俺は反対方向に走り出す。

 とりあえず逃げるしかない。

 いったん距離を取り、それから――。


「あいつを殺す……」


 俺の【殺人チート】は相手を視界に収めれば発動できる。


 何度かスキルテストをしたけど、射程は俺が相手の顔をある程度認識できる距離――おおよそ50メートルほどだった。


 一方のあいつは、どれくらいの射程距離だろうか?

 仮に50メートルの距離を取った場合、あいつの『穿つ攻撃』を避けることは難しくない。


 攻撃が飛んでくるまでに数秒のタイムラグがあったからな。

 俺の方はあいつを視界に収め、能力を使うために集中する一瞬の時間――およそ二秒ほど――があれば、あいつを殺せる。


「天使の力っていうのには興味があるけど、命をかけてまで解き明かそうとは思わないからな……俺を狙ってくる以上、あいつには死んでもらう」


 俺は物陰に隠れ、つぶやいた。


「なるほど。俺の能力は射程距離が短い――そう考えたわけだね、東雲くん」


 竜堂の声が聞こえた。


 俺をおびき出そうとしているのか?


 もちろん、俺は不用意に顔を出したりはしない。

 隠れたまま奴の正確な位置をつかみ、【爆殺】を叩きこむ――。


 奴がまとっている【穿孔】のバリアを打ち砕く必要があるが……そのためには、まだ『一手』足りない。


 どくん、どくん、どくん……!


 心臓の鼓動がどんどん早くなっていく。


 それも当然か。

 今までの殺人は、反撃の危険性なんてほぼゼロだった。


 少なくとも殺されるようなリスクはゼロといっていい。

 圧倒的な力を振るい、なんの力もない標的を一方的に殺す――。


 それが、今まで俺がやって来た殺人だ。


 けれど、今回は違う。

 相手もまた、俺を一方的に殺せるだけの力を持っている。


 俺は、殺されるかもしれない。

 そんな緊張感の中で繰り広げる殺人行為だ。


 殺されて、たまるか。


 俺は内心でつぶやく。


 スマホを取り出し、竜堂を注視しつつ通話アイコンをタップする。


『奴ら』の出番だ――。



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