13 正義の執行者

「もう一度、確認するよ」


 竜堂が俺を見据えた。


「君は校内の生徒を自分の意志で殺した。能力が暴走したのは嘘……これで間違いはないか?」

「なんのことだ?」


 言いながら、俺はじりじりと後ずさる。


 奴の能力である【穿孔】は、見えないドリルを飛ばすような攻撃だ。

 攻撃の軌道はまったく見えない。


 だが、さっき見たとき、着弾までにわずかなタイムラグがあったように思える。

 なら、距離を取れば取るほど、避けられる確率は高まるはず――。


 なんとか奴の攻撃が来る前に、俺の【殺人チート】を叩きこみたい。


 万一、その前に奴の攻撃が来ても、一度避けることができれば、二撃目が来る前に俺が【殺人チート】を食らわせられるだろう。


 勝負は――初撃で決まる。


「正直に答えてくれないか。君が自らの意志で大量殺人を犯したなら許すわけにはいかない。俺が裁きを下す」

「裁き? 神にでもなったつもりか?」


 ……まあ、俺も気に食わない者を数十単位で殺しているが。


「神じゃない。俺は正義を執行する者だ」


 竜堂は真顔だった。


 うわ、正義の味方気取りか。


「つまり、俺が悪だと確定しない限り、お前は俺を攻撃しないってことか?」


 なら黙秘するか?

 いや、たぶん――、


「君が無実なら答えない理由はないだろう。答えが返ってこない時点で肯定とみなす」


 竜堂が俺をにらんだ。


「さあ、答えろ。大量殺人を行ったのは君の意志によるものなのか?」

「なんだ、答えても答えなくても殺すんじゃないか」


 俺はニヤリと笑った。

 どうやら、問答はここまでのようだ。


 だんっ!


 地面を蹴って、大きく跳び下がる。


 同時に精神を集中。


 奴に【殺人チート】を食らわせる――。


『逃がさない』


 その瞬間、背後から誰かに羽交い絞めにされた。


「何……っ!?」


 幻想体セリューエルだった。


「こいつ……っ!?」


 しまった、こいつも戦いに参加してくるという可能性を失念していた……!


 くそっ、情けない。

 やはり、初めての戦闘で俺は自分が思っている以上にテンパっていたんだ。


『さあ、撃て。竜堂』

「よくやったぞ、セリューエル」


 竜堂が俺に向かって右手を突き出す。


 まずいぞ、【穿孔】が来る……!

 次の瞬間、


『ぐあっ……』


 苦鳴ととともに吹き飛んだのは、俺を羽交い絞めにしていたセリューエルだった――。


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