12 幻想体の出し方について


「幻想体の出し方は簡単だ。自分に『力』を与えてくれた者の姿を強くイメージする――それだけさ」


 と、竜堂。


「セリューエルってのは、もともとそういう姿なのか?」

「ああ、本体も同じ姿だよ」


 俺の問いに竜堂がうなずく。


「今、そいつがしゃべったように思えたけど……」

「ああ、幻想体は天界にいるセリューエルの本体とつながっているんだ。普通に会話をして意思疎通だってできる」

「じゃあ、そいつから能力の詳細を聞き出したのか?」

「……そうだね。ただ、何でも教えてくれるわけじゃない。意外と気まぐれなんだ」


 と、竜堂。


 とはいえ、ある程度の情報提供はしてくれるってことだよな。

 幻想体を呼び出すことができれば、俺にとって大きなメリットになりそうだ。


「教えてくれ、竜堂。俺は力のコントロールを学びたい」


 真剣な表情で言った。


『力』の暴走で事故を起こしてしまった――なんて完全な嘘っぱちだが、その『事故』を憂い、なんとかしたいと懸命に考えている様子を醸し出す。

 上手く騙せるといいが――。


「……君は、自分の『力』の暴走に悩んでいるんだね」

『嘘だな』


 セリューエルが言った。


『先ほどからその者の様子を見ていたが、悪意しか感じない。大方、幻想体を呼び出すことで、さらに強力な能力を得るか、能力自体を磨こうとしているのだろう』


 こいつ……っ!


 俺は反射的にセリューエルをにらむ。


『幻想体の出し方まで教えたのは、お前の迂闊だ、竜堂」

「そうだな……すまない。彼の善意を信じて、つい気が緩んだ」


 竜堂がセリューエルに頭を下げる。


「敵意、とは?」


 それから竜堂は俺に向き直った。


 露骨に警戒している様子だ。


 ……ちっ、騙せないか。


「セリューエルは限定的だが人の心を読むことができる。だから、とりあえずは君の話を聞いていたが……君も、彼と同じだな」

「彼?」

「この間始末した能力者さ。下位天使から力を授かり、その力で気に入らない人間を何人も傷つけていた」


 竜堂が語る。


「だから、俺が殺した――」


 俺を見据える瞳に強烈な光が宿る。


 背筋がゾクリとなった。


 その光は――明らかな殺意だったからだ。

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