3 早朝から俺にビビる宮本


 翌日、俺は普段通りに登校した。


 捜査のために警察官が学校内で作業したり、聞き込みを行うこともあるが、協力してほしい、と朝礼で言われた以外は、おおむねいつも通りの学園生活である。


 ただし、いじめはもうない。


 俺を主にいじめていた五人――そのうちの田中と佐藤は死に、山田は俺に手出しできないように【強制】されている。


 成瀬はただのセフレ状態だし、残る一人である宮本も単独で俺に手を出してくることはないだろう。


 こいつは特別ケンカが強いとかじゃない。

 成績はいいけど、つるんでいる山田たちの腕っぷしが強いだけで、こいつ自身は運動能力はむしろ低いくらいだ。


「よう、宮本」


 俺の方から挨拶してみたが、


「あ、ああ……」


 逃げるように去っていった。

 すっかり立場逆転である。


「なんで逃げるんだよ? せっかくクラスメイトとして親睦を深めようとしているのに」


 俺は彼に追いすがった。


「た、助けて……」


 宮本は震えている。


 眼鏡の奥の瞳はすでに潤んでいた。

 泣く寸前だった。


「少し前は、俺の方が宮本みたいな立場だったんだよな」


 ニヤリと笑う俺。


「し、東雲……?」

「正直、お前らに声をかけられるだけでビビってた。次はどんな嫌なことをされるんだろう、って恐怖していたよ」


 言いながら、ニヤニヤ笑いが止まらない。


「その恐怖を――お前も味わえているか、宮本」

「う、うう……」

「ははは、今日も明日もあさっても……これからずっと、お前に恐怖を与え続ける。楽しいな」


 俺は宮本の肩を抱いた。


「お前らが俺にやっていたことを、俺もお前らにやってるんだ。おあいこだよな。確かに――こういうのは楽しいよ。弱いやつを『力』でいたぶる……最高だ」

「ううううう……」


 宮本の顔は蒼白だった。


「じゃあな、これからも――友だちでいてくれよ、宮本」


 俺は奴の肩にポンと手を置き、去っていく。



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