28 山田の心をへし折る


 それから山田に向き直る。


「て、てめえ……」


 山田の顔が引きつっている。


「やっぱりお前が全部やったんだな……田中も、佐藤も……」

「そうだな。神様が俺に授けてくれたんだ。お前らみたいな連中を殺す力を。俺の人生を変える力を――」


 俺が笑う。


「何をわけのわからないことを……」

「なんだ、冗談だと思ったのか? まあ、いいか。信じる信じないは自由にすればいいさ。どうせお前はこれから死ぬ――」


 言いつつ、俺は山田にはまだ殺意を持っていない。

 簡単に殺すつもりはなかった


「ひ、ひいいい……」


 さすがに山田も恐怖に耐えきれなくなったらしい。


 気丈な表情がだんだんと崩れていく。

 代わりに浮かんだのは、泣きそうな顔。


「ん、どうした? 俺を気持ちよさそうにいじめていたときのお前はどこにいったんだ?」

「し、東雲ぇ……」


 山田の声は笑ってしまうくらいにか細く、震えていた。


 いい気味だ。


「ま、待て、待ってくれ!」


 山田は俺の前に這いつくばった。


「分かった! 分かりました! 俺が悪かった! 助けてくれぇぇぇぇっ!」


 とうとう恐怖が限界を超えたらしく、山田は泣きながら謝ってきた。


「そんなに悪いと思っているなら、どうして今まで俺をいじめた? いや、いじめなんて言葉じゃ片付けられない。俺はお前らに肉体的にも精神的にも苦痛を与えられ続けてきた。お前らのやって来たことは紛れもない犯罪だ。だから裁かれなきゃならない――」

「反省してます! もうしません! 許してくださぁぁぁぁぁい!」


 山田は泣きじゃくっていた。


 命を助かりたい一心だろう。

 こいつの、こんな情けない姿を見られるとはな。


 それだけでも溜飲が下がったが、もちろんそれで許してやるつもりはない。


「そうだな……今日の俺のことを口外すれば、その場でみずからの命を絶て。これは【強制】だ」


 ま、仮にうまくいかなかったとしても……俺の能力のことを他人が信じるとは思えない。

 逆に山田の精神状態の方が疑われるだろう。


 どう転んでも、俺に危険が及ぶことはないだろう。

 そう踏んでのことだった。


「これからもお前は恐怖におびえ続けるんだ。俺をさんざんいじめ抜いた『罪』を背負い続けろ」

「ひいいいいいい……」


 山田は俺の言うことを聞いているのかいないのか、その場にへたりこんでいる。


 ズボンの股間が濡れていた。

 成瀬同様に、恐怖で失禁したらしい。


「じゃあな、山田。また明日。お互い、楽しい学校生活を送ろう」


 ニヤリと笑い、俺は屋上を後にした。





※次回から第2章になります。ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!

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