22 俺におびえる山田と、俺に媚びを売る成瀬

「なんだ東雲『くん』って? お前、こいつをそんな呼び方してなかったろ」

「う、うるっさいなー。どうでもいいでしょ、そんなこと」


 山田のツッコミに成瀬は顔をしかめた。




 それから、俺たちは屋上に移動した。


「よし、俺たち以外に誰もいないな」


 屋上を見回し、山田がニヤリと笑った。


 本来は立ち入り禁止になっているんだけど、特にカギはかかっていないため、入ろうと思えば簡単に入れる場所だ。

 実際、昼休みにここで昼食をとる者や休み時間にここに来る者もいるが、半ば黙認状態だった。


 現在、ここには俺と山田、成瀬の三人だけ。



 山田はニヤニヤ笑っていた。

 何かを企んでいる――そんな悪意に満ちた顔だ。


 だが、俺に恐れはなかった。


 奴が何を仕掛けてきたとしても、俺には『力』がある。

 最終的には殺してしまえばいい。


 そう思うと、恐怖が湧いてこないのだ。


 むしろ『奴が仕掛けてきた内容によって、殺すか生かすか決めよう』と生殺与奪の権を一方的に俺が握っているという優越感すら感じる。


「で、何をするつもりなんだ?」


 俺は山田にニヤリと笑った。


「何かするつもりなら、やれよ」

「な、なんだ……」


 俺の態度に威圧感を覚えたのか、奴はたじろいでいた。


「何がおかしいんだよ……!? なんでそんなに余裕なんだ……」

「別に。ただ、気を付けろよ。お前の出方次第では――」


 俺は笑みを深くする。


「死ぬぞ」

「な、何を安い挑発してんだ……コラ」


 言いながら、山田の声は震えていた。

 やはり怯えを完全に隠せないようだ。


 正直言って、気分がいい。

 今までとは完全に立場逆転だからな。


 他人に対して優位に立つって、気持ちがいいことだったな。

 あらためて実感する。


『力』を得たことで、初めて得られるようになった実感だ。


「ねえ、山田。東雲くんを刺激しない方がいいよ」


 成瀬がとりなすように言った。


「こいつ、絶対ヤバいから……」

「なんだよ、そんなふうに言われると傷つくな」


 俺がニヤリと笑うと、成瀬は大慌てしたように、


「あ、ごめん! 違うの! 悪く言うつもりはなくて……」


 言いながら、俺に寄り添ってくる。

 柔らかな胸の感触が腕に押し当てられていて、ちょっとにやけそうになってしまった。


 山田の要件が終わったら、今日もこいつとヤるか……。


 いつでもヤれる女がいる、というのは、男としての自信につながる。

 爽快だった。


「? 成瀬、なんでこんな奴に遠慮してんだよ」


 山田が眉をひそめる。


「まあいいか……おい、いいぞ。入ってこいよ!」


 と、大声で叫んだ。


 すると給水塔の陰からゾロゾロと何人もの男子生徒が出てくる。


「おう」

「待ちくたびれたぜ」

「へえ、そいつか? いかにも陰キャって感じだな、ははっ」


 次から次へと――現れたのは全部で二十人近い集団だった。


 どいつもこいつも目つきが悪く、派手な金髪だったりスキンヘッドだったりピアスをつけていたり……全員が校則から逸脱した外見をしている。


 何よりも全身から醸し出す威圧感と退廃的な空気が――いかにもヤンキーという雰囲気だった。


 ……こんな奴ら、何百人いても俺の敵じゃないのにな。


 内心で、俺はせせら笑っていた。


 とはいえ、正面から戦っても当然勝てない。


 逆に『仕込み』さえ終われば、俺の勝ちが確定する。

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