16 マナーが悪い通行人を殺す

 気が付けば、周囲の風景は元に戻っていた。


 エルギアスの言う『時間停止』が解除されたんだろう。


 俺はふたたび家に向かって歩き出す。


 と、ふいに鼻先に異臭が漂ってきた。

 焦げくさい臭い――タバコだ、と思って顔を上げると、前方に歩きながらタバコを吸っている男が見えた。


「マナーくらい守れよ……」


 つぶやく。


 歩きタバコをしながら歩いている男に対し、俺は軽く舌打ちした。

 タバコの煙は嫌いだ。

 臭いし、健康にも悪いし、とにかく不愉快だった。


 と、その舌打ちが聞こえたらしく、男がこっちに歩いてきた。


「あ?」


 と威嚇しながら、俺をにらんでいる。


 柄の悪そうな男だし、もしかして俺に絡んでくるかもしれない。


 先の展開を予想しながら、ワクワクしている自分に気づいた。


『力』を持たなかったころなら、きっと恐怖しか感じなかっただろう。

 全速力で逃げ出すか、逃げることさえできずに、おびえて立ち尽くすか――そのどちらかだと思う。


 けれど、今は違う。

 俺は自然とニヤニヤした笑みをもらし、男を待ち受けた。


「さあ、どう来る――?」


 怒鳴りつけるか?

 いきなり暴力でも振るってくるか?


「お前、舌打ちしただろ、今! ええっ、俺を見て舌打ちしたよなぁ?」


 大声で怒鳴る男。

 さらに勢いよく近づいてくるところを見ると、殴るつもりかもしれない。


 俺との距離はあと十メートルくらいだ。


 底から近づいてきて、残り五メートル。


 三メートル――よし。


 この距離なら、奴の死にざまを見て取れる。


「死ね」


 俺は淡々と告げた。


 この手の輩は死んでいい。

 そう思ったからだ。


 同時に第一の殺人モード……俺の能力の基本形が発動する。


 ぽんっ!


 男の頭部が吹き飛んだ。

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