13 すっかり従順になった杏

「東雲くんって、すごいね」


 休み時間、鈴木さんが話しかけてきた。


「すごくないよ。ただ勇気を振り絞ってみただけさ」


 俺は笑顔で答える。


「やっぱり東雲くんはかっこいいな……」


 鈴木さんがポツリとつぶやく。


 ん?


「あ、ご、ごめんなさい! なんでもないのっ……」


 顔を真っ赤にして彼女は走り去っていった。


 もしかして鈴木さん、俺のことを――?


 いやいや……勘違いするなよ、俺。

 こんな冴えない陰キャのことなんて相手にするはずがないじゃないか。


 ……まあ、それでも。

 鈴木さんみたいな女の子と話すと、楽しいし落ち着くしいい気分になるな。


 これはこれでいい関係を築いているんじゃないかと思う。




 放課後になった。


 俺は【強制】の新たな使い道を考えていた。


 この間、いじめっ子の山田たちに、互いに疑わせ合うようなことを吹き込んだ。

 それによって彼らは疑心暗鬼になり、恐怖を覚えているはずだ。


 その恐怖をさらに高めるために――【強制】はうってつけのモードだった。


 山田と宮本にそれぞれ【強制】をかけ、互いに怪しい行動をとらせまくり、疑心暗鬼をさらに増大させる――。


「ねえ、ちょっといい? 東雲くん」


 やって来たのは成瀬だった。


 今までは『東雲』と呼び捨てにしたり、『お前』と呼んできていたくせに、今は『東雲くん』か。


「なんだ、成瀬」


 答えながら、彼女の胸元や腰回りに視線を這わせる。


 俺はこの体を抱いたんだよな。

 生まれて初めてのエッチはなかなか気持ちよかったし、やっぱり興奮した。


 今日も適当な場所を探して、こいつとヤるか――。

 なんてムラムラしていると、


「ねえ、さっきの授業のこと、聞いたよ?」


 成瀬が俺を見つめていた。


「体育の木村になんかしたんでしょ、あんた?」


 おびえたような目つきだ。


「さあな」


 俺は否定も肯定もしない。


 そのことが成瀬をますます不安にさせたようだ。


「ね、ねえ、今日も……その、よかったら……」


 体をくねらせる。


「ヤ、ヤらせて……あげる……」

「あ?」


 俺は成瀬をにらんだ。


「立場をわきまえろ。お前は俺に奉仕する立場だろ? 言葉遣いが違うんじゃないか?」

「ご、ごめんなさい、東雲くん」


 成瀬が頭を下げた。


「あたしでよかったら、どうかエッチしてください」

「ああ、それでいい」


 俺は満足してうなずいた。

 ますますムラムラしてきた――。


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