12 第三の殺人モード

『第三の殺人モードの使用条件を満たしました。新たなモードの名は【強制】です』


 例の声が響いた。


 新しいモード?

 心の中でたずねると、


『使用者の意志により、任意の対象に命令を一つ与えることができます。その命令に従い、相手を自殺させることも、あるいは他の者を殺すこともできます』


 命令によって間接的に、あるいは直接的に殺す……って感じだろうか?


『ただし、対象となる者の体の一部に触れる必要があります』


 なるほど……じゃあ、とりあえずは、


「先生、ちょっといいですか」


 俺は木村の元に歩み寄った。


「ああ? なんだお前は?」


 すごむ木村。


 以前ならこの迫力に震えあがってただろうな、俺は。


 けど、今は違う。

 俺はさりげなく彼の腕に触れた。


 そして心の中で命令する。


『今後一切、生徒への暴力を禁ずる。この禁を破った場合、破った翌日に自ら命を絶つこと』


 次の瞬間――。


「っ……!? ぐ、が……が……な、なんだ、これ……? 頭の中に、何か声が……あああ……がぁぁぁぁ……っ」


 いきなり木村がその場にうずくまった。


 真っ青な顔をして、両手で耳を押さえている。

 額には冷や汗が流れている。


「どうされたんですか、木村先生?」


 俺の方は淡々とした口調でたずねた。


 が、それに対する返答はなかった。

 顔面蒼白のまま、木村はうずくまっている。


「木村先生?」


 俺はニヤリと笑って、奴の顔を覗き込む。


「ひ、ひいい……」


 木村は悲鳴とともに後ずさった。


 恐怖だ。

 大きな恐怖を感じて、身をすくませている。


 第三の殺人モードの副次的な効果だろうか?


 それはともかく――俺は木村に言った。


「先生、そろそろ授業を進めてください」


 周囲が小さくざわめいた。

 生徒にパワハラ行為を行っている間の木村には、誰も近づけない。


 誰も声をかけられない。


 いじめられっ子の俺が、そんな禁忌を破って木村に声をかけたのだから、驚かれるのも当然か。

 だが――、


「あ、あ、は、はい……す、すみません」


 俺に促され、木村はうなずいた。


 そして、その後はつつがなく授業が進められた。


 パワハラ行為は、一度も行われなかった。


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