10 初体験

 俺は成瀬を相手に、生まれて初めて女を知った。


 セックスって想像していたほど気持ちよくないな、というのが正直な感想だ。


 とはいえ、エロ動画などでは経験できないリアルな興奮をたっぷりと味わうことができて、俺は満足していた。


「ふう……」


 痺れるような快感の余韻に浸りながら、俺は下着とズボンを身に着ける。


「もう……中に出さないでよ……」


 成瀬は怒っていた。


 股間から太ももにかけて白濁色の液体が垂れ落ちている。

 俺が彼女の中にたっぷり注ぎこんでやった欲望の残滓だった。


「ね、ねえ、約束忘れないでね」

「分かってるって。その代わり、ときどきヤらせろよ」

「……いいけど。避妊はして」


 成瀬が俺をにらむ。


「分かった分かった。次からゴムを用意するよ」


 苦笑交じりにうなずく俺。


「じゃあ、約束だよ」


 成瀬はようやく笑みを浮かべると、俺に軽くキスをした。




 次の日――。


「おはよ」


 俺は隣の席の鈴木さんに声をかけた。


「うん、おはよう」


 彼女は微笑む。


「今日はいい天気だな」


 俺は窓の空を見て言った。


 天気の話題を振ったことに、特に意味はない。

 自分でもよく分からないが、とにかく気分が高揚していた。


 昨日の初体験の影響だろうか?

 童貞を卒業して世界が変わった――なんて大げさな話じゃないけれど。


 でも、とにかく気分がいい。


「昨日は大変だったけど、これからは平和になるといいな」

「そうだね」


 鈴木さんはしみじみとうなずく。


 彼女はまだクラスメイトたちの死を引きずっているんだろうか。

 いや、鈴木さんだけじゃなく大半の生徒はショックから覚めていないだろう。


「本当に……そうだね」

「そういえば、この前話してくれたアニメだけど――」


 俺は無理やりにでも話題を変えた。


「東雲くん……?」

「いや、静かにした方がいいなら黙るよ。ただ、何か話していた方が気がまぎれるかもしれないと思って」

「……ありがと。優しいね、東雲くんは」


 微笑む鈴木さん。


 可愛いな、と素直に思った。

 成瀬は単なる欲望解消の道具くらいの感覚だが、鈴木さんにはそれなりに好感を持っている。


 今はまだ友情の範囲から出ないけれど……。

 正直、ちょっと胸がときめいたのも事実だ。


 それから、しばらく雑談が続いた。


 鈴木さんとの会話は、今まで以上に俺にとって癒しタイムになりつつあった。


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