6 残る標的は、あと三人

 俺をいじめているのは主に五人の生徒だった。


 そのうち空手部の田中とチャラ男の佐藤は死んだ。

 俺が、殺した。


 残りは三人だ。


 田中と並び、俺に直接的な暴力をしょっちゅう振るっていた柔道部の山田。

 ネチネチと陰湿ないじめ方法を次々に提案してくる秀才の宮本。

 そして、メンバーの中で唯一の女子、ギャル系の成瀬だ。


 翌日、登校するなり、俺はそのうちの一人……山田と出くわした。

 柔道部で鍛えているだけあって、180センチ超の体つきは筋骨隆々としている。

 いつもなら委縮するところだが、今は違う。


「よう」


 ニヤリと笑って挨拶する。


「……」


 山田は無言だった。

 それどころか、俺から視線を逸らしてしまう。


「おい、シカトかよ?」


 こんな反応は初めてなので、俺はニヤニヤしてしまった。


「……いや、そういうわけでは……」

「ああ、もしかしてビビッてるのか?」


 俺は嘲笑するように言う。


「な、なんだと……!」


 怒ったのか、山田が顔を赤くする。


 当然、奴の方が俺よりずっと体格がいい。

 柔道部でもかなり強い方らしいし、喧嘩なら俺なんて全然相手にならないだろう。

 だが……、


「ちっ」


 俺に得体のしれないものを感じたらしく、山田は背を向け、去っていった。

 やっぱりビビッてるんじゃないか。


 俺は朝から気分がよかった。


    ※


「東雲のやつ、なんか変じゃねーか?」


 山田は他の二人のいじめっ子――宮本や成瀬と話していた。


「ああ……あいつ、今朝から妙に余裕ぶってやがるな」

「あいつは田中が死んだことに関係あるのかな……?」

「ってゆーか、もしかして佐藤が死んだのもあいつのせい? あたし、怖いよ……」


 眼鏡をかけた秀麗な顔立ちの宮本も、明るい茶髪でいつも朗らかな成瀬も、ともに怯えた様子だった。


 山田は自分の腕っぷしに自信があり、いざとなれば暴力で東雲を制圧できるため、彼らほど恐怖を感じていないが――。

 それでも、警戒感は強く湧き上がっていた。


 あいつは、得体がしれない。

 本能的な危機感は日増しに大きくなっていた。


「いや、あいつは田中に指一本触れてない……佐藤だって病死だからな」

「佐藤も死んだんだぞ」

「けど、こんな立て続けに死ぬなんておかしいだろ」

「絶対偶然じゃないって」


 宮本と成瀬が言った。


「そうだな……」


 うなる山田。


「あいつ、まさか本当に何かやったんじゃないだろうな。俺たちには分からない方法で二人を殺した……?」

「じゃあ、俺たちも狙われるのか?」

「いやだよ、そんなの……」


 不安がる二人に、山田はため息をついた。


 完全に怯えている彼らが情けなかった。

 相手は今まで散々いじめてきた東雲である。

 あんな陰キャに、自分たちがおびえさせられるなど屈辱でしかない。


「よし、放課後になったら呼び出すか」


 山田が言った。


「その時に問い詰めればわかることだ」

「あ、じゃあ、念のため他の連中にも手伝わせようぜ」

「だね。あたしも何人か声かけてみるよ」


 ――やがて放課後になり、彼らは再び東雲を呼び出した。


 人気のない屋上まで連れていき、問いかけた。


「なあ、お前――田中と佐藤を殺しただろ?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る