4 鈴木桃那

 これで俺は、いじめられなくなった――わけではない。


 翌日登校すると、誰も俺に挨拶をしてくれなかった。


 俺は何人かに挨拶をしてみたけど、完全に無視されてしまうので、途中でやめてしまったのだ。

 相変わらず、俺はクラスで浮いた存在らしい。


 いや、昨日のことで、また別ベクトルで敬遠されているのか?

 でも、いじめられないだけマシだろう。

 と、教室に入って自分の席に着いたところで、


「おはよう、東雲くん」


 隣の席の女の子が声をかけてきた。


「おお、話しかけてくれる奴がいた……!」

「? なんか感動してる?」

「すごくしてる」

「それはよかった」


 にっこり笑ったのは、同じクラスメイトで、名前は鈴木桃那ももなという。


 肩までの黒髪に黒ぶち眼鏡という地味な容姿だ。

 性格もおとなしくて目立たない子だけど、よく見ると結構可愛い。


 隣り同士ということで俺に話しかけてくれる数少ない女子だ。


 俺がいじめられていたときにも味方になろうとしてくれた、俺の中では『味方』認定している数少ない人間だった。


 まあ、俺に味方すると彼女までいじめられかねなかったので、表面上、あまり味方をしないでくれ、とお願いしてあった。


 そのときの鈴木さん、寂しげだったな……。


「……うん」


 俺は素っ気なく返事をした。


「昨日は大変だったね。まさか田中君が殺されるなんて……」

「警察は殺人と事故の両面で捜査してるみたいだぞ」

「えっ、事故なんてあり得るの? だって、彼の首……いきなり、と、飛んで……」


 鈴木さんはそのときのことを思い出したのか、顔を青ざめさせていた。


「さあな。けど、あの状況で誰かが田中を殺すなんて無理だろ? 誰も指一本触れてない」


 俺は肩をすくめる。


「そっか……そうだよね……事故……」


 鈴木さんはまだ青い顔をしていた。


「きっと警察が突き止めてくれるよ」

「そ、そうだよね……」


 俺の言葉にうなずく鈴木さん。


 まあ、真相を知っているのは俺だけだ。




 昼休みになると、いじめっ子二人目が俺の席までやって来た。


 名前は佐藤。

 こいつも田中同様、いつもクラスの中心にいる。


 チャラい外見でけっこう女遊びが激しいらしい。

 うちのクラスにもこいつと付き合って……というか、弄ばれてポイ捨てされた女子がいるとか、なんとか。


「よう、東雲。お前が田中を殺したらしいな」

「なんの話だよ?」


 俺は白々しくとぼけてみた。


「とぼけるなよ。昨日、田中が殺されたとき、一緒にいたんだろ?」

「いたけど、俺は田中に触れてもないし、近くに行ってもいないよ」

「じゃあどうやって殺したんだよ?」


 佐藤がすごんだ。

 俺の胸倉をつかむ。


「俺じゃないと言っているだろう」


 胸倉をつかまれたまま、俺はにらみ返した。


 今まではビビってばかりだったけど、『力』を得た以上、もうビビる理由はない。

 さあ、こいつはどうやって殺そうかな……。


 その場で即死したら、俺が疑われる。


 いや疑われなくても、変な目で見られるのは確かだろう。

 しかも田中の件があるし、同じような殺し方をしたら、絶対警察に目を付けられると思う。


 何か別の殺人方法を考えるんだ。


 そうだな、たとえば……俺がいない間に死ぬような方法。


 たとえば、時間差で死ぬようなダメージを与えるとか……?


 その瞬間、


 ――術者の意志を確認しました。『呪殺』モードを使用します。


 頭の中で声が響いた。


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