3 初めての殺人、その後の喧騒

「きゃああっ!?」

「うわぁああーっ!」

「ひぃっ!?」


 たちまち教室中が騒然となる。


 悲鳴をあげ、腰を抜かす女子たち。

 男子たちは口々に叫びながら教室から出ていく者や、呆然と立ち尽くす者たち。


 そんな中、俺は無感動に田中の生首を見下ろしていた。


 殺してしまった。

『能力』は本物だった。


 後悔はなかった。

 罪悪感もなかった。


 こいつは殺されて当然だと思う。

 俺の、一年半の苦しみに比べたら、なんてことないじゃないか。


 ただ、一方で俺の頭の片隅で警鐘が鳴る。


 これ――俺が殺人犯だと疑われる可能性はないだろうか?


 あらためて考えを整理してみる。


 まず、俺は田中に指一本触れていない。

 それはクラスの大勢が証言してくれるだろう。


 距離は2,3メートルくらいは離れていたはず。

 だから物理的な証拠や状況証拠で俺が殺人犯にされることはないと思う。


 ただ、多分……重要参考人ってやつにはなるだろう。


「さて、と――」


 俺は自分でも驚くほど醒めた気持ちで、今後のことを考えていた。

 警察対応を、間違えないようにしないとな……。




 ほどなくして担任の小松先生がやってきた。


 ちなみに二十四歳、独身で黒髪ストレートの美人先生である。

 ちょっと憧れてたりする。


「えっと……みんな、落ち着いて聞いてほしいんだけど……」


 と、言いかけたところで、俺は気がついた。


 生徒たちの視線が俺に集中していることに。

 それも好奇とか驚愕といったものではなく、怯えているような視線だ。


「えっと、田中くんが亡くなりました。死因は不明で、首を切られたことによる出血性ショックということですが……」


 先生が淡々と説明する。


「後ほど警察の方が来ますので、何か聞かれるかもしれませんが、そのときは自分が見たことをできるだけ正確に答えてください。冷静になるのは難しいと思うけど……」


 その言葉通り、三十分ほどして警察が来た。


 現場検証のために俺も同行する。

 俺は田中が死んだときにすぐ側にいたため、特に重要な目撃者として扱われた。


 そして、いくつか質問された。

 俺はなるべく客観的に、事実だけを答えていく。


 俺の答えは的確だったようで、警察は俺の証言を信じてくれたようだ。


 そして――俺は解放された。


 教室に戻ると、クラスメイトたちは誰も俺に話しかけてこなかった。

 もともと陰キャぼっちだったんだけど、今日はちょっと雰囲気が違う。


 証拠はなくても、俺が田中を殺した犯人だとみなしているような空気感。


 ま、いいか。

 俺の能力が本物だと証明されたんだ。


 周りにどう思われるかなんて、別にいいや。

 元々こいつらと友だちってわけじゃないし。


 俺がいじめられていたとき助けてくれた奴はいなかった。

 助けようとしてくれた奴が若干名いたけれど……。


 それはともかく、この力を今後どう使っていこうか――。


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