2 いじめっ子を殺す(一人目)

 いつも憂鬱だった登校だけど、その日は違った。


 気持ちが高鳴っている。


 これからあいつらを殺せると思うと興奮してくる。


 俺は奴らにされた仕打ちの数々を思い出した。


 靴を隠されたり、机の中にゴミを入れられたり。

 教科書を隠したり、トイレに閉じ込められたり。

 みんなで寄ってたかって、俺を虐めてきた。


 もちろん反撃したこともあるけど、すぐに取り押さえられて酷い目にあわされる。


 腕力じゃとてもかなわないし、向こうはクラスの中心メンバーで、俺はただの陰キャだ。

 味方もいない。


 これまでずっと孤立無援だった。


 一年半、ずっと。


 でも、やっと反撃するための力を得たんだ。


「……しまった、能力テストくらいやっておくべきだったか」


 俺はハッと気づいた。


 気持ちが高揚しきってそんな発想すら抜け落ちていたとは。


「……いや、いいんだ」


 まず奴らの一人を相手にテストすれば。


「ふうっ」


 俺は大きく息を吐き出し、教室に入った。



 毎日、ここに入るたびに緊張する。

 いじめが、いつ始まるか分からないからだ。


 と――おあつらえ向きに、いじめっ子の一人が来た。


 名前は田中。

 こっちを見てニヤついている。


 こいつは空手部に所属していて、けっこう強いんだけどレギュラーになるにはもう一歩足りない……って感じらしい。

 そのストレスを、俺を殴ることで解消しているようだ……迷惑な話だった。


 昨日、俺を殴ったのも主に田中だった。


「よう、今日は早いじゃん。昨日の罰ゲームはちゃんと守ったのか?」


 罰ゲームというのは、昨日の放課後、奴らが別れ際に言ってきたことだ。


 その内容は――『明日、学校に来たらお前の持ち物を全部焼却炉に入れろ』というものだった。


 もちろん、断れば彼らの『制裁』が待っている。

 今までにも同じような命令を何度か受けていて、そのたびに俺は持ち物を買い直す羽目になっていた。


 親に言い訳するのが大変なんだよな……。


 だが、もうそんな心配をする必要もないわけだ。


 神様にもらった『力』が本物なら、だけどな。


 俺は無言で近づいていく。

 田中はヘラヘラ笑いながら近寄ってくる。


「おい、無視すんなよ!」


 ドンッと肩を突き飛ばされる。

 俺は無様に転んだ。


「あはは、何やってるんだよ、東雲」

「だっせー」

「あんまりいじめてやんなよ、田中~」


 クラスのあちこちから失笑がもれる。


 今までの俺なら怒りと屈辱で震えていただろう。

 いや、もはやそんな気持ちすら湧いてこなかったかもしれない。


 でも、今は違う。


 もはや――以前の俺じゃないんだ。


 俺はゆっくり立ち上がった。

 田中をにらみつけ、念じる。


 ――死ね。


「へっ、何にらんで――」


 田中の言葉は次の瞬間に途切れた


 ぼしゅっ……。


 妙に軽い音とともに、彼の首が弾け飛んだ。


 血飛沫が舞う。

 ごろり、という音が響く。


 絶命した田中の首は、目を見開いたまま床に転がっていた。

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