第10話 夏休みの計画を始めましょう
「まったく昨日は心配したんだぞ〜風邪とは無縁な奏が休むなんて一年の時は無かったのにさ」
「悪かったって。でも、急にきて我慢できなかったんだよ。ごめんな千冬」
翌日、回復した身体でクラスのドアを開けた。今朝方、登校する前は母さんや真央に心配されもう1日休む事を薦められたが姉である真依の一言が2人の意見を抑え込んだ。
『どうせ、暇だからゲームでもするでしょきっと。それなら出席日数だけは稼ぎなさい』
ぐうの音も出ない正論。
本当は2人の勧め通りに学校を休んで撮り溜めているアニメやゲームを消化しようと考えていたのに、どうしてか見透かされていた。
そして制服に着替えいつも通り朝食を食べた後、真夏の外を歩き出して今に至る。
「あ、そうだ。昨日、駒形先生がHRで夏休みの宿題について話していたけど奏は進学?それとも就職?」
「んーー…進学かなぁ。働きたくないし」
まだ高校2年生。しかし、そう考えているといつの間にか受験生になって勉強や大学選びで頭を悩ませる事は今の彼女を見て実感している。だからこそ、早めの行動は大事なのだが…
(正直、どっちでもいいんだよな…けれど働きたくはない…)
正直なところ高校生の段階で将来を見据える事は難しく思っており、自分が将来何をやりたいか何て思い浮かべるのが難しかった。
まして、高校を卒業して直ぐに働くなんて想像出来ない。とりあえず進学を選択し、その中から学んでみたい講座がところで選択しようと考えていた。
「そっか〜、それじゃ私たち4人とも進学だね!」
「涼太はバスケ部が有名なところで、千冬は先生になりたいから教育系の大学だもんね」
「榎本は何処に行くか決まっているのか?」
みんな行きたい未来をある程度把握しており、その先を掴んで進もうと決めている。
そんな希望ある話に必ず言葉が詰まっているのは、俺と榎本の2人だけだった。
彼女は少し目を泳がせた後、俺の問いに対して口を開いた
「私も進学だけど、まだ決まってないんだ。とりあえず有名企業へ就職が強そうなところに行くつもり」
その言葉を聞いてきっと本心ではないと感じ取れたけど決まってないからこそその道しか無いようにも感じ取れた。そんな会話をしていたらいつの間にか予鈴がなり、各々が各自の席に着く。後ろから見る彼女の背中は少し気を張っているように見えた。
☆☆☆
「ねぇねぇ夏休みどこに行く?私的にはプールに行きたいなぁ!」
昼休み、教室の一角で席を囲みながら俺たちは昼食をとっていた。千冬と榎本は家で作ってきたお弁当と可愛らしい物を食べていた。
代わって俺と涼太はコンビニ飯というで健康とは言い難く『とりあえずお腹に溜まればいい』というラインナップ。
俺自身、女体化したことによって食は細くはなったものの食べるもの自体は変わらない。たまご、ハムとレタスを挟んだサンドイッチの封を切り口に運ぶ。
(まぁ、前のように大量のおにぎりや牛丼などのコンビニ飯は食べなくなったが)
「やっぱりよー、海がいいんじゃね!今年こそは海に行って潮風を浴びたんだ!」
「日焼けするから却下。ホント涼太って女心を分かってないわ、、、莉絵はどこがいい?」
千冬と涼太が議論を進め俺と榎本が軌道修正をするのが恒例で、2人が行きたい場所に俺たちがついていく。インドア派な俺と榎本は基本的に外に遊びに行きたがらない。極力、家でゆっくりしたい。ゲームやアニメを見たりなどで特に今のような夏の季節や冬の12~1月ぐらいは引きこもり状態で、予定がなければ家に引きこもっている。
(榎本にふっても特にないって答えるのが関の山だろうけど・・・)
「私は・・・お祭り行ってみたい。この4人で行ったことないしさ浴衣とか着てみたい」
驚いた、普段から自分の行きたいところはあまり言わない彼女がこうして意見をいう事が珍しく、何かあったのではないかと思ってしまう。しかも『浴衣が着たい』なんて年頃な理由というのも可愛らしい。
(榎本の浴衣姿か、、、気になる)
☆☆☆
「なぁ、どうしてお祭りって答えたんだ?確かに俺たち行ったことないけど」
涼太と千冬がトイレに行っている間、それとなく彼女に聞いてみる。寡黙ではないが普段はそこまで自分の意見を言わない彼女だ、気になって聞いてみる。
「私たちって来年になったら3年生じゃん?互いの道に進む準備をしなくちゃいけないし、もしかしたら今みたいに遊べないかもしれない。だからこうやって思い出は作っていきたいんだ」
「それに浴衣を着て夏祭りって青春じゃない?奏も可愛らしいからきっと似合うと思うよ?」
「・・・そりゃどうも」
彼女のいう事は筋が通っている。確かに今のように馬鹿遊びなんてものは減ってくるだろう、だからこそ自然と皆が同意していたのだろう。
(男の状態で堪能したかったなぁ~~そりゃ2人と一緒に着替えられるのは最高なんだけど)
そうこう話していると、席を外していた二人が帰ってくる。何を話していただの聞いてくるが、夏休みの行きたいところを纏めていたなんて適当な事を言えば再燃するように2人が会話を広げていく。
「・・・ちょっと飲み物を買ってくるわ。戻るまで三人で話しといて」
☆☆☆
「あ!奏ちゃんじゃん!おっひさ~」
「松尾・・・お前も何か買いに来たのかよ」
自販機でココアを購入しているとふと後ろから声を掛けられ、個人的に会いたくない人物が立っていた。どうしてこうも彼女とは偶然が重なるのか、合わせてくるのかそれとも自然とこちらが合わせているのか、そう思ってしまうほど彼女とは縁があるように思えてくる。
「ねぇねぇ!夏休みの予定とか聞いていい?どこか行くの?」
「一応な。てか、聞いたらついてくるだろうから言いたくないんだけど」
少し冷たく突き放してしまったか、と思ったが彼女はベタベタとくっついてくる。彼女は百合的な人なのかと勘違いしてしまう。しかし、こんな奴が榎本と仲がいいのがよく分からない。
「そういえば奏ちゃんって公野大学に行きたいんだっけ?莉絵ちゃんから聞いたよ~」
アイツ・・・
こちらが困り顔で彼女に目線を送るも彼女はそれを無視して話を続けていく。
「それじゃあさ、次の土曜日にここの文化祭やるらしいから行ってみようよ!」
「え~~~」
偶然か、それとも必然か。
初めてのオープンキャンパスはこうして始まっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます