第4話 俺、下着買います

とある日曜日。俺たち女子3人は、グループで話し合っていた目的地に足を運んでいた。

繁華街は同じような年齢層の人達で混み合っている。


「やっぱり渋谷って混んでるよね〜、至る所に制服着てる人見かけるよ」


若者の街、渋谷。ファッションにコスメ、下着なども多数取り揃えられており女子高生から大学生、若めのOLにも人気の街と化していた。


「ねぇ、行くところは決まっているの?渋谷とか全然、行ったことないんだけど…」


そういう榎本はあまり慣れていないのだろうか、先程から私と一緒に千冬の話ばかりを聞いている。

よく、千冬や部活のメンバーと遊びに出かけているとは聞いているが実際はどうなのだろうか


「あれ、榎本は慣れてない感じ?よく遊びにきてるって言ってたけど」


「…私こういう人混み苦手なんだよね。付いてきてるけど殆ど何も知らないんだ」


確かに榎本莉絵は友人でおる華葉千冬と比べて物静かであり、他の女子たちと比べても落ち着いているだろう。

女子にしては高い背丈で167cmもあると、その落ち着きさがカッコよさとクールな印象を運んでくるが彼女自身がそういった「キャピキャピしたノリ」というものに苦手意識を持っているだけとは…


「さっきからニヤニヤしてるけど、そんなにおかしい?」


「まぁまぁ、怒るなって。女の子らしいところあるんだなぁってさ」


「普段からすごく落ち着いているからさ、可愛らしいじゃん」


クールな一面を持っているようでやっぱり同年代の女の子だ、そういった素直な感情は持っていた方がこちらとしても好感が持てる。


「おーい、何してるの?早く行くよ〜!」


この買い物に1番乗り気な千冬の声掛けで止まっていた足を動かす。今日は彼女のナビゲートに任せよう、先を歩く千冬について行き、俺は榎本の手を取り歩き出した。


目的地は渋谷108

テレビでもよく特集されるし2人も行ったことがあるところで長い建物の中には女性の目を奪うコスメ、可愛らしいブランドの洋服。レストランなど1日いても飽きないだろう。


「俺、真央や姉さんたちと来たことがあるけどやっぱり凄いよなぁ。男だけだと入れない雰囲気が漂っている。」


「確かに1人だといけないかも….まぁ、買いたい服のカテゴリーが違うから行かないけどさ」


確かに榎本のスタイルはこういった売ってないのかもしれない。

黒のオフショルダーに明るめのジーンズという背丈を活かした健康的なスタイルに対して千冬は黒とピンクをメインにしたワンピースというスタイルで、小柄で可愛らしい。

渋谷・原宿にいそうな服装、互いに服装のセンスが違っている。


「榎本もああいった可愛いの着てみれば?案外似合うかもよ?」


「…考えとく」


⭐︎⭐︎⭐︎


エスカレーターに乗り上の階へ向かう。土曜日ということもあって各フロアも同年代の女の子が多く、ゆっくり見て回るだけでも疲れそうなほどだった。


「ここだよー!私がいつも行くランジェリーショップ!」


彼女が意気揚々と紹介したお店は『Style care』というランジェリーショップだった。透明なガラスで店内を外からでもよく見えるようになっており、いくつかのマネキンには色鮮やかな下着が着せられている。

客層もそれほど多くなく、これならゆっくりと見て回れそうだ。


「ここ色々と品揃えもいいんだ!店員さんも優しくて親切でさ、自分に合った物をおススメしてくれるんだよね!」


鼻息荒い千冬の話を聞いていると、商品を並べていた店員がこちらへ向かって歩いてくる。パンツスタイルのスーツ姿でヒールのおかげか、背が俺より数10センチ高い。茶色の髪を綺麗に束ねた姿は、大人な女性を感じさせた。


「いらっしゃいませ、お久しぶりですね。今日も何かお探しですか?」


「あ、どうも〜。今日は友達が新しい下着が欲しいらしくて付いてきた感じです!」


『新しい下着』というニュアンスは、俺が元男という誤解を招かないようにか、まぁ多分言ったとしても信じることはないだろうが彼女なりの気遣いだろう。

千冬が後ろに回って背中を押す。どうやら、この子のを買いに来ましたと伝えたいのだろう。対面した女性と不意に目を合わせてしまう、近くで見るとより綺麗で大人の雰囲気が漂っていた。


「あ、かしこまりました。こちらのお客様に合う下着ですね?」


「そーなんです!なんか、最近サイズが合わなくなったらしいんで測り直してほしいんですよ!」


「かしこまりました。それではお客様、まずフィッティングの方から確認させていただきますね」


「うぇ!?あー、はいはい…」


理解する前に展開が繰り広げられている。後ろを振り向くと2人は手を振っており、一つ溜め息をついた後、店員の言われるがままに奥のフィッティングルームに向かっていった。


⭐︎⭐︎⭐︎


「それではサイズの方を測りたいと思いますので上着を脱いで頂けますか?」


彼女に言われた通り白のパーカーを脱いで肌着だけになる。彼女の正面に立つとメジャーを広げており、いつでもサイズを測れる体制になっていた。


「それではトップの図りたいので腕をあげてください。脇下、失礼しますよ〜」


ひんやりした感覚が脇に伝わる。巻き付いたメジャーのサイズを確認している店員の表情は真剣そのものだった。


「トップが85…アンダーは65cmですね…」


数字を言われても?しか思いつかない。85とは?大きいのか、しかし65cmは小さいような。けれどこの胸にくっついているグレープフルーツのようなものは結構、大きいと思うのだがどうなのだろう。


「お客様のサイズはDカップですね!今から下着をお持ちしまうので少々お待ちください」


そういって試着室を後にし、中には私は1人だけになった。とりあえず彼女達に無事に終わった事とサイズを伝える。


「えーっと、『今終わった。Dカップだったよ』こんな感じかね?」


あいつらはなんで反応するだろうか、もしかしたら買い物に夢中で見ていないかもしれない。スマホを眺めていると、先程探しに向かった店員がこちらに戻ってきた

「色々とお持ちして来ました、これ以外の物も取り寄せておりますので気軽にお声掛けくださいね。それでは失礼します」


カーテンを閉められハンガーにかけられた、数点の下着を眺める。

淡いピンクに花柄の刺繍が入った物もある。水色や黄色、少し大人びた深めの色合いの黒の下着も青色の下着もあった。


「…とりあえず着てみていいなと思ったやつを買うとしますか」


これといって欲しいものはないが、せっかくここまでしてくれたのだ。無下には出来ない。とりあえず、服越しにあてて気に入ったものを実際に着て見ることにした。


⭐︎⭐︎⭐︎


「ありがとうございました〜!」


(合計で約8,000円か…まぁまぁ高いお買い物になった)


男性の頃は下着などにここまでお金をかけた事はなかった。洋服でもこんなに高い買い物は、まだ少ないだろう。


「あ、奏!お疲れ〜!どうだった?」


「疲れた…高い買い物だったよ」


2人はどこで買ったのだろうか、タピオカを片手に話しかけてくる。きっと待たずに歩き回っていたのだろう。


「奏がDカップか…Bの私よりも大きいなんて…はぁ…」


「ねぇ、千冬。なんであんなに榎本はショック受けてるの?」


「んー?まぁ色々とあるのよ。それよりもさお腹すいたし何か食べに行こ?」


時刻はすでに午後2時を示しており、お腹を空くはずだろう。

外で食べるか、上の階で食べるかどうかを話すその様子は女子会そのものだった。

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