第3話 女の子の事情??

「ただいまー」


あのあと何やかんや遊び回って時刻は19時を回っていた。朝からのドタバタからか母親にも連絡をしていなかったので、心配させたに違いない。

手洗いをしてリビングに顔を出す、そこでは母と唯一の姉である黒瀬真依が座っていた。


「あ、おかえり〜!奏が遅かったから真央と母さん、ご飯先に食べちゃったから姉さんと食べちゃってね」


夕飯を温め直してテーブルに置くと母さんはお風呂に向かっていた。私の為に我慢していたのだろうか、夕飯のデミグラスソースがかかったハンバーグは温め直されて湯気が立ち、美味しそうだった。


姉さんの前に座る。よく見る黒のパーカー姿という出立ちでラフな格好だ。もうお風呂は浴び終わったのだろう。

長い髪を見ても艶があり、ほのかに柑橘系の香りもする。


「奏、ほんとうに女の子になっちゃったのね…」


「!?ど、どうしてそれを」


座った席から立ち上がり驚愕する、まだ何も伝えていないのに何故姉は知っているのか疑問でしかなかった。


「真央がお昼頃に連絡してきたのよ、お兄ちゃんがお姉ちゃんになっちゃったなんて…」


「最初は何処か頭でも打ったのか、お酒でも飲んだのかって思ったわ。けれど話している内容からして割と本当のように聞こえてね」


そこから姉さんは1日、話を聞いたりして放課後の時間に真央と会い、話を聞いていたらしい。

朝の時は割と落ち着いて話していたが、やはり整理がつかなかったのだろう。2時間もカフェで話を聞くハメになった、と呟いた。


「まったく、あの子は話が長いのよ。せっかく講義が終わったらカフェにでも行こうって話があったのに…時間が無駄になったわ」


「まぁ、それがアイツの個性じゃないのかな…?」


「別にいいけどね。それより体とか大丈夫なの?気分が悪かったりしない?」


「今のところはそんな感じもないかな〜、肩が凝るぐらい」


姉さんは「そう」と呟いた後、席から立ち上がり食べていた食器を片した。それから互いに話すこともなく、向こうは皿を洗い此方はテレビのお笑い番組を眺めながら時間は過ぎていった。


「奏、私もう部屋に戻るから。お母さんが出たら貴方の入っちゃいなさい」


「髪はちゃんと洗うのよ、ゴシゴシはダメ。シャンプーとかは私の使っていいから」


姉からの忠告を適当に聞き流す。決してテレビが面白くて集中して見ているからではない。今日一日が疲れたから、どうしても会話がおざなりになってしまうのだ。


「その肩凝り、もしかしたブラが合ってないかもしれないから新しく買った方がいいわよ」


「!?げほっ……急に何言うんだよ!」


思わずむせこんでしまう。後ろを振り向くも姉の姿は見当たらなかった。吹き出したジュースがシミにならないよう丁寧に拭き取る。もし、シミになったら母さんに何を言われるかわからない。


「自分に合ったものねぇ〜」


男の時は全く関係ない悩みだった。どんなに大きなモノを持っていたとしても腰痛になるわけじゃないし何か擦れて痛いわけじゃない。なんなら収縮可能なのだ。

しかし女性の胸は大きいだけで肩が凝る。男のパンツとも違ってサイズが合わないブラをしていたら息苦しいし、擦れたり動きにくさを感じる。


「1人で買いに行くのは恥ずかしいけど……あ、そうだ」


スマホを開きトーク画面に切り替える。連絡先は『女子会!』と銘打った榎本と千冬の3人のグループだった。


⭐︎⭐︎⭐︎


「下着か〜、まぁ男子はあまり縁がない話だもんね」


「ついに奏もそんな悩みを抱くようになったなんて…」


その日の夜、俺は親友の女子2人に助けを求めた。22時を回っていたのにも関わらず即既読。彼女らはいつも何時ごろに寝ているのだろうか、疑問が浮かぶが彼女たちの会話スピードが早く話は進んでいった。


「昨日少し話したけどカップ数…大きさは分かってないんだよね?」


「ん?あー、そうだね。でも標準なんじゃないかな?そこまで大きくないし」


「いやいや、ちゃんと自分に合ったサイズじゃないとダメだよ?」


そこから2人からブラジャーについて色々と話を聞いた。一応、調べはしたがやはり今のバストを維持・固定する、クーパー靭帯らしきものを保護するものらしい。合わないやつを選ぶと苦しい、肩こりだってひどくなる。そして動いた時に胸が動いてしまうのだ。


「固定されてないと揺れて痛いのよ、男子からのキモい目線も浴びるし」


「はははっ……そりゃ大変だなぁ」


そうかそういう理由だったのか。俺も男子だった時、大きく揺れていた女子生徒を眺めていた記憶がある。今度から大きく揺れていない人は、合っていないブラをしているのだ、と感じながら見ていこう。


「まぁサイズに関してはお店に行って測り直そうっか。好きなブランドとかえるの?」

「昨日今日まで男だった奴が女性用下着についてお気に入りとかあったら怖くないか?」


そんなことをいって2人はケラケラと笑う。確かに彼女はいるが、お気に入りの下着を着用させる趣味など俺にはなかった。

昼休み終了のチャイムが鳴る。作ってきた弁当やコンビニで買ったものをゴミ袋に入れて立ち上がる。


「それじゃあ放課後、3人でいこっか。涼太は抜きでね」


こうして放課後、女子会ならぬ初めての女子同士のショッピングが決行された。





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